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その購入ボタンを押す前に 知っておきたい「売れ筋ランキング」の中身牧ノブユキの「ワークアラウンド」(1/2 ページ)

» 2017年03月18日 06時00分 公開
[牧ノブユキITmedia]

 IT関連の製品が実際どのくらい売れているかは、基本的にメーカーでなければ分からない。うそ偽りのないメーカーからの出荷数を、横並びで比較できるデータというのは存在しておらず、そのため調査会社や販売店が独自に集計した販売ランキングや売れ筋ランキングが、それらに限りなく近いものとして扱われている。

 つまりいずれのランキングも100%正確とは言い難いわけで、それゆえ各ランキングの仕組みを知っておくことは、売れ筋を正確に把握して製品選びをするうえで重要だ。

 今回は、現在よく指標として使われている3つのランキングについて、その集計方法の特徴と、割り引いて考えなくてはいけない点を紹介する。偏りのあるランキングをうのみにして吹聴して回る前に、本稿でその特徴を把握してほしい。

BCNの「BCNランキング」

 調査会社が提供するランキングは他にもあるが、BCNはPOSデータを提供している販売店の数が多く(2016年1月時点で23社)、集計が日次で更新されるなど速報性も高いことから、業界内では事実上のスタンダードとして扱われている。またBCNランキングを基に年1回発表されるBCN AWARDはメーカーを格付けする指標として知名度が高く、各社とも血眼になってそのジャンルのナンバー1を争っている。

BCN BCNランキングの説明(BCNマーケティングのWebサイトより)

 多くのメーカーは同社からBCNランキングのローデータを購入してマーケティングに活用しており、そこではJANコードごとの実数も開示されているため、実際にはPOSを通過していない数字が加算されるといった不正はまずあり得ない。そうした意味でも、販売数の実態を最もよく表したデータと言える。

 しかし、弱点もないわけではない。一つは加盟社数で、他の調査会社に比べて圧倒的に多いものの、集計に含まれない販売店も少なくない。具体的にはメーカー自ら運営する直販サイトがそれで、直販比率が高いメーカーほど、ランキングでは不利になりやすい。直販中心の外資系メーカー製品などは実態が把握しづらいのだ。

 とはいえ、メーカー自ら運営する直販サイトの売上数を加算するとなると、自己申告でズルができてしまうわけで、公正さを優先するのであれば現状の方式がベターだろう。むしろ過去に「通販サイトが入っておらず信頼性に欠ける」などと突っ込まれていたのを、何年もかけてAmazon.co.jpやNTT-X Storeを対象店舗に取り込むなど改善に努めてきたことを、肯定的に評価すべきだ。

 もう一つ、BCNの集計システムはあくまでも数量ベースなので、特定ジャンルのランキングを集計するにあたって、仮にA社の販売内訳が「新製品×100個」なのに対し、B社が「新製品×1個、旧製品の赤字でのたたき売り×100個」だった場合、トータルの販売数は「B社>A社」となるため、B社がトップシェアのメーカーになってしまう。価格にかかわらず、1個でも多く売った方が勝ちというわけだ。

 BCN AWARDの集計が終わる間近になると、メーカーは赤字覚悟の特価品をBCN対象店舗に投入し、一つでも多くPOSを通過させることで、BCNの集計に反映させようとする。特に中間集計で1位と2位が小差だとこの争いはますます激しくなり、集計が終わる間際には目玉が飛び出るような特価品が登場することもしばしばだ。この特価品はBCNの集計対象店舗だけをターゲットとしており、対象外の店舗で見かけることはまずない。

 これらの争いがさらに加熱すると、メーカーが自社製品を社内使用で使う際に、倉庫から手配せずに、わざわざBCN対象店舗に出向いて客として自社製品を購入し、販売数を増やすといったトンデモな行為も、一部で行われる。BCN AWARDでその部門の1位に輝くことは、それだけメーカーにとって重要なのだ。裏を返せば、メーカーにそこまでさせるほど、販売数で不正を行うことが困難な、信頼性の高いランキングとも言える。

 余談だが、こうした1位と2位メーカーの血みどろのシェア争いが繰り広げられると、3位以下のメーカーがそのあおりを食って大きくシェアを落とすというのはよくある話だ。BCN AWARDの部門別シェアでよく見かける「1位と2位が小差、3位以下は大差」という結果の背後には、こうした争いがあったと思ってほぼ間違いない。

価格.comの「売れ筋ランキング」

 ネットでよく参考にされるのが、価格比較サイト「価格.com」の売れ筋ランキングだ。正規ルートで国内流通しているIT系のハードウェア製品を網羅しているという意味では、価格.com以上のサイトはない。またスペック違いやカラーバリエーションも別々に集計されるなどきめ細かな作りのため、個々の製品の売れ筋を調べるにあたって参考にされることが多い。

価格.com 価格.comのマウス売れ筋ランキング例(価格.comより)

 もっとも、同サイトは直接的に販売を行っておらず、販売サイトへ送客しているだけなので、どうやって売れ筋を把握しているのか、不思議に思う人もいることだろう。

 同社によれば、「各製品情報ページの閲覧回数と価格.comに掲載している店舗のアフィリエイト実績を基に集計したもの」であり、「価格.comに登録のある全ショップの売上データに基づくものではない」という。事実上、製品ページを見て「ショップの売り場へ行く」ボタンをクリックした数値が基準になっていると考えられる。

 つまり、「売れ筋=実際に売れた数ではない」ということから、POSを通過した時点で初めてカウントするBCNランキングとは大きく異なる。仮に「ショップの売り場へ行く」ボタンをクリックした後に離脱するユーザーの割合がどの製品もおおむね同じであるならば、製品同士の比較には役立つだろうが、それもあくまで「その製品を買いたくなったユーザーの数」の比較でしかない。

 また、集計対象店舗についても「全掲載ショップの売上データ=売れ筋ランキングではない」ということから、ランキングにはある程度の偏りがあると考えられる。こうした点を考慮して、この売れ筋ランキングを見る必要がある。

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