提案力を回復しはじめたau──2009年春モデルに見るKDDIの戦略:神尾寿のMobile+Views(1/2 ページ)

» 2009年02月04日 08時00分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 1月29日、KDDIとソフトバンクモバイルが、2009年春モデルを発表した。すでに詳しいリポート記事が多数掲載されているが、KDDIは新型番を採用したモデルを中心にコンシューマー向けモデルを10機種、ソフトバンクモバイルは9機種を発表。1月末から順次発売され、1年を通して最大の商戦期である春商戦に臨む。

 今回のMobile +Viewsでは、このKDDIとソフトバンクモバイルの新製品や新サービスをもとに、両社の春商戦に向けたラインアップとスタンスを見ていきたい。

「提案するau」に回帰の兆し

 2008年はKDDIにとって受難の年だった。

 なかでも目立ったのは端末共通プラットフォーム「KCP+」の開発の遅れと、市場投入後に見られた完成度の低さによる“つまずき”だったが、それ以外に目を向けても、近年のKDDIとauブランドは精彩を欠いていた。筆者はその根本的な原因を、「auとしての提案力」の欠如であると見ていた。2007年以降のauは、端末と料金、そしてエリアの広さやインフラの高速化対応においてドコモとの違いや優位性が急速に失われた。KCP+導入のつまずきで、auの強みだった端末とサービスの一体的な使いやすさも大きく後退した。新たな技術とサービスを、使いやすく絶妙な価格設定で提供するという「市場提案力」が弱くなったことで、auのブランドは損なわれ、KDDIは市場のキャスティングボートを握れなくなってしまったのだ。

 不運も重なった。auの市場提案力と競争力が落ちていくのと反比例するかのように、ドコモのブランドイメージと市場競争力は回復した。2008年後半には解約率が0.5%以下になるなど、驚異的な顧客満足度の高さを実現し、新規契約獲得でもソフトバンクモバイルの襟首をつかむポジションまで駆け上がった。一方、ソフトバンクモバイルは、かなり強引な販売攻勢が見られるようになり、息切れも感じられるが、それでも2008年を通じて純増首位で逃げ切った。こうして2008年、相対的に「auの失速」が浮き彫りになってしまったのは事実であろう。

 このような背景を鑑みて今回の春商戦ラインアップを俯瞰し、筆者がまず感じたのが「提案するau」が回復する兆しだった。まだ不完全ではあるが、再びドコモと異なるアプローチで未来をめざす、“auらしさ”の手がかりをつかみ始めている。

「価値とライフスタイルを提案する」姿勢へ

 そのことを顕著に感じたのが、同社の“ライフスタイル”に対する姿勢の変化だ。2006年前後からKDDIは、「ユーザーの多様なライフスタイルに合わせる」というスタンスを取っていた。これは言葉として聞こえはいいが、今あるユーザーの声におもねるだけで、リスクをとって“未来のライフスタイルを切り開く”気概がない言葉でもある。実際、その頃からauの端末やサービス、料金プランから、革新性や先進性が失われ始めた。

 しかし、今回は違った。

 KDDI 代表取締役社長兼会長である小野寺正氏は記者会見の冒頭、KDDIが目指す新たな社会のイメージとして「アンビエント社会」というコンセプトを提示。「auらしさを大切にし、新たな価値やライフスタイルを提案したい」(小野寺氏)と明言した。KDDIが描くアンビエント社会の構想は、ドコモが描くパーソナライズ/行動支援型サービスのビジョンと基本的な部分で類似しているが、それをKDDI自身の言葉で表したことは大きな意義がある。

 「利用シーンやライフスタイルの提案と創造をしていくという姿勢で、モノ作りに励む」(小野寺氏)

 市場トレンドやユーザーに迎合するのではなく、ドコモとは違うアプローチで未来に臨む。小野寺氏やKDDI取締役執行役常務の高橋誠氏の発言には、再び“攻め”の姿勢に転じる覚悟があった。

秋冬モデルよりauらしく

 ここからは具体的に端末ラインアップを見ていこう。冒頭でも紹介したように、今回春商戦向けに新たに発表されたコンシューマー向けモデルは10機種。これは秋冬モデルとして投入されたモデル数と同じ(※)だが、その内容は秋冬モデルよりもバリエーション感に富み、個々のモデルのクオリティも底上げされている。

※Walkman Phone, Xminiと島耕作ケータイを含む。データ通信カードは除く

Photo 上段左からPremier3、H001、S001、T001、CA001、下段左からSH001、P001、K001、NS01、NS02

 例えば、ソニー・エリクソン・モバイルコミュニケーションズ製の「Cyber-shotケータイ S001」は、秋冬商戦から続くキーワードの1つであるカメラ機能に注力した端末だが、スリムで凝縮感のあるデザインはほかの“カメラケータイ”と一線を画すエッジの効いたモデルに仕上がった。エンタテインメント機能を強化したデュアルオープンスタイルの「Walkman Phone, Premier3」も「W44S」の後継機種として、パナソニック モバイルコミュニケーションズのWオープンスタイルとは異なる魅力をうまく引き出している。3D表示に対応した日立製作所の「Woooケータイ H001」と合わせて、他社のハイエンドモデルとの違いがうまく訴求できている。

 また、「NEW STANDARD」と銘打たれた新シリーズ(ベルトのついたケータイ NS01、ケースのようなケータイ NS02)もおもしろい。これは長く使うことを前提にしたシンプルな新ラインアップという位置づけだが、そのデザインと機能のバランスがよく、手にした時の“しっくりくる”感じや雰囲気が他社のスタンダードモデルとは一線を画している。NSシリーズは価格を抑えた普及モデルという位置づけだが、その中であえて無名性と普遍性のあるコンセプトを目指し、商品企画とデザインでこだわるという姿勢は最盛期のauに通じる部分がある。個人的には今年の冬商戦でもっとも「今後の成長が楽しみ」と感じたのが、このNSシリーズである。

 カシオ計算機製の「CA001」と、シャープ製の「SH001」は、万人向けの中核モデルとしてロングセラーと販売量を狙う。

 CA001はau初のタッチパネル搭載という部分が注目されているが、実際に試してみるとタッチパネル部分の作り込みはそれほど徹底されていない。タッチパネル前提で開発された「Touch Session」の操作感はよく、とても完成度が高いのだが、総じていえばCA001のタッチパネルはあくまで補完的・実験的な実装にとどまっている。「iPhone 3G」のような完成度の高さはない。むしろ、筆者がCA001で好印象を持ったのは、オーソドックスだが押しやすいボタンと、機能とデザインのバランスのよさの方だ。

 一方、今回のauラインアップの中でやや物足りないと感じたのが、SH001である。同機は8MピクセルのCCDカメラと画像処理エンジン「ProPix」を搭載し、カメラ機能の高さではCyber-shotケータイ S001と比肩している。デザインや質感のレベルも高く、魅力的なモデルであるのは確かなのだが、「au向けのシャープ端末」としての個性が薄い。カメラ以外の機能やデザインも“シャープではおなじみの”の枕詞がつく内容だ。他キャリア向けのシャープ製端末との差異性が乏しいのである。これは他キャリアからの乗り換えを促すためにあえて狙った商品企画だろうが、他社のモデルが“auとしての主張”をしはじめた中で没個性的に見えるのが残念である。

 端末ラインアップ全体で見ると、この春商戦向けのモデルは、着実に「auとしての主張」が芽吹き始めている。より踏み込んでいえば、ドコモとの違いがきちんと出始めているのだ。

 今年の夏モデルからはデザインの企画監修体制が大きく見直され、再び“デザインのau”に向けた建て直しが図られるという。今回、その片鱗が見え始めたauの独自性や優位性を重視する動きは、引き続き拡大しそうである。

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