日本のエネルギー市場を変革する、新制度がスタート解説/再生可能エネルギーの固定価格買取制度(1)

待望の新制度が7月1日から始まった。日本のエネルギー市場を大きく変えるインパクトがあり、企業や家庭における電力の位置づけを根本から見直すきっかけになるものだ。この新しい制度の中身を理解して、これからの節電・蓄電・発電に対する取り組みを効果的に進めていきたい。

» 2012年07月02日 09時30分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 2012年度が始まった4月以降、太陽光発電を中心に再生可能エネルギーの取り組みが全国各地で活発になっている。大規模な太陽光発電所(メガソーラー)の建設計画が相次ぎ、一方で太陽光パネルを搭載したスマートハウスの販売が急拡大している。いずれの動きも、新たに始まる「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」をにらんだものである。

ALT 図1 2009年度における発電量の構成比。出典:資源エネルギー庁

 この新制度が大きな注目を集める理由は主に2つある。第1に従来の日本のエネルギー供給体制がさまざまな問題を抱えていることが明らかになり、それを解決するためには再生可能エネルギーの拡大に国を挙げて取り組むことが不可欠になったことだ。日本の電力全体に占める再生可能エネルギーの比率はわずかに1%であり(図1)、その結果として国のエネルギー自給率は4%にとどまっている、という事実が象徴している。

 第2の理由は企業や家庭において電力の利用コストが増大しており、その削減手段として自家発電設備をもつことが有効になってきたことである。自家発電で余った電力は新制度によって高い価格で電力会社が買い取ることに決まり、再生可能エネルギーに対する取り組みが全国各地で一気に広がった。

買取価格は家庭向け電気料金の約2倍

 それでは7月1日から始まった固定価格買取制度とは、どのようなものなのか。まずは全体の仕組みから見ていこう。この制度を運営する主体は経済産業省で、買取価格や買取条件などを法律で規定する役割を担う(図2)。すでに6月18日付で「電気事業者における再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法施行規則」という名称の省令を公布し、新制度に関する規定を細かく定めた。

ALT 図2 固定価格買取制度の全体の仕組み。出典:資源エネルギー庁

 この法律に従って、企業や家庭が再生可能エネルギーで発電した電力を、電力会社が一定の価格で買い取り、利用者に供給する電力として活用する、というのが新制度だ。再生可能エネルギーを拡大することが我が国にとって極めて重要な施策になることから、買取価格は高く設定されている。例えば太陽光発電の場合は通常の家庭向けの電気料金の約2倍の価格である。

 買い取る側の電力会社は通常の電気料金との差額を負担することになるため、その差額相当分を電気料金に上乗せすることが認められている。これを「賦課金」と呼び、7月から企業や家庭向けの電気料金に追加される。電力会社によって金額に差はあるが、平均すると1kWhあたり0.3円になる。通常の企業向けの電気料金が1kWhあたり10円〜15円程度、家庭向けで20円前後であることから、許容範囲と考えるべきだろう。東京電力が予定している電気料金の値上げ幅に比べれば数分の1以下のレベルである。

買取価格は下がり、賦課金は上がる方向に

 電気料金に影響する買取価格と賦課金は毎年見直すことになっている。買取価格は発電設備の種類ごとに、1kWhあたりの単価が決められている(図3)。それぞれの発電設備の標準的な建設費と運転維持費をもとに、一定の利益を上乗せした形で算出する方法をとる。利益の割合は発電設備の種類によってリスクを想定したうえで、IRR(内部収益率)という指標で設定する。例えば地熱発電のように事前調査に多額の費用がかかるものはリスクが高いため、ほかの発電方法と比べてIRRが高くなる。

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ALT 図3 発電方法(電源)別に定められた固定買取価格の概要。出典:資源エネルギー庁

 実は制度開始から3年間は、このIRRが1〜2%高く設定されることになっている。新制度の利用者を増やすためだが、4年目からは割り増しがなくなり、すべての発電設備の買取価格が多少下がることが予想される。この制度を長期的に利用することを検討する場合は、買取価格を少し低めに見ておいた方が安全と言える。

 もう一方の賦課金は、電力会社が1年間に買い取る再生エネルギーの総額から、同じ量の電力を従来の設備を使って発電した場合に必要となるコストを差し引いて計算する。あらかじめ経済産業省が年間の買取量を推定して算出するため(図4)、年度が終わってから集計される実際の買取量と差が出る。

 この差額は次の年度の賦課金に反映する。想定通りに買取量が増えていくと、賦課金も高くなっていく。むしろ賦課金が高くなれば、それだけ再生可能エネルギーが増えたことになるわけで、望ましい傾向と考えるべきだろう。

 2012年度は前年度と比べて再生可能エネルギーによる発電量が13%増加すると見込まれているが、このペースでは10年後でも現在の3倍程度にしか増えない。少なくとも原子力に依存しないエネルギー供給体制を作り上げるためには、この2倍以上の勢いで伸びていくことが必要だ。新制度をきっかけに、多くの企業と家庭へ再生可能エネルギーの取り組みが広がることを期待したい。

ALT 図4 2012年度の再生可能エネルギーによる発電量と買取量の年間見込み。出典:資源エネルギー庁

 本格的にスタートした固定価格買取制度は、特に企業にとっては今後の効率的な電力活用法を考える上で重要になる。自家発電設備で作った電力を売れるようにするためには、いくつかの条件や課題がある。その一方で大量の電力を購入する企業の場合は賦課金も決して小さくないが、事業の内容によっては緩和措置が適用されることになっている。

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連載(2):「電力を高く売るための条件、少しでも安く使う方法」

連載(3):「買取拒否と接続拒否ができる、新制度に残る運用上の問題」

連載(4):「太陽光発電の事業化が加速、10年で採算がとれる」

連載(5):「風力発電が太陽光に続く、小型システムは企業や家庭にも」

連載(6):「水力発電に再び脚光、工場や農地で「小水力発電」」

連載(7):「地熱発電の巨大な潜在力、新たに「温泉発電」も広がる」

連載(8):「バイオマスは電力源の宝庫、木材からゴミまで多種多様」

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