キーワード解説「揚水発電」キーワード解説

「電気は貯めておけない」ということが「常識」だったころもあったが、最近は大型のリチウムイオン蓄電池の普及が始まり、住宅やビルなどで使用する電力を貯めておけるようになった。しかし、リチウムイオン蓄電池が普及するずっと前からかなり大きな電力を貯める方法はあった。それが「揚水発電」だ。

» 2012年09月07日 11時15分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]

 揚水発電とは、水力を利用した発電方式の一種。水が高いところから低いところに落下するエネルギーを利用して水車を回し、発電する。ただし、一般的な水力発電とは異なり、電力を貯める仕組みを備えている。

 揚水発電では高いところと低いところに貯水池を作り、高い場所にある貯水池から低い場所にある貯水池に水を落下させて発電する。さらに、低い場所にある貯水池から高い場所にある貯水池に水をくみ上げるポンプを備えている。ポンプをほかの発電所で発電した電力で動かして水をくみ上げることで、くみ上げのために使用した電力を貯めておく大規模な蓄電施設として利用できる。

 一般には、電力使用率が低い夜間の余剰電力を利用して水をくみ上げておき、電力需要がピークに達する時間帯に水を落として発電する。ほかの発電方式と比べると、揚水発電は短時間で起動でき、すぐに止められる。つまり、需要の変化に素早く対応できるので、ピーク時の追加電源に適している。発電所の事故などで、電力供給力が急に落ちたときに利用することもある。

 水のくみ上げを充電、放出を放電ととらえて蓄電池と特性を比較すると、蓄電池は充電した電力の90%程度を利用できるが、揚水発電ではくみ上げ時や発電用水車によって電力を大きく損失するので、蓄電池に比べると充放電の効率は悪い。

 一方、貯められる電力量を比較すると、揚水発電なら発電所が発電する規模の大電力を貯められるが、現存する蓄電池では、そこまで大きな電力を貯められるものはない。効率は悪いが、揚水発電は現時点で最も大きな電力を貯められる蓄電システムと言える。

 日本で最大の出力を誇る揚水発電所は関西電力の奥多々良木発電所(兵庫県朝来市)。その出力は最高でおよそ1932MW(193万2000kW)。黒川ダムから多々良木ダムに水を落として発電する。

 東京電力は現在、奥多々良木発電所を上回る規模の揚水発電所として「神流川発電所」(群馬県多野郡上野村、長野県南佐久郡南相木村)の建設を進めている。2012年9月現在、2台の発電機が稼働しており、合計出力は940MW(94万kW)。2022年以降にさらに4台の発電機が稼働を始める予定。すべての発電機が稼働を始めると、合計出力は2820MW(282万kW)に達する。

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