日本最長の信濃川が流れる長野県では水力発電が盛んで、中でも「小水力発電」の導入量は全国で第1位である。県内の電力需要の2割以上を満たし、大規模な水力発電と合わせると6割近くに達する。2020年までには太陽光発電も大幅に増やして自給率をほぼ100%に高める計画だ。
信濃川は長野県に入ると、名前が千曲川に変わる。その名の通り曲がりくねって流れる川だが、水の流量が非常に多く、水力発電に適した川である。ダムによる大規模な水力発電所のほかに、環境負荷の小さい「小水力発電」の設備が県内の各地域にあって、発電量は全国で最大の規模を誇っている(図1)。
すでに小水力発電で県内の電力需要の23%(3万kW未満の中水力発電を含む)をカバーできるというから驚きだ。大規模な水力発電所と合わせると比率は58%になり、さらに太陽光発電などを加えると電力需要の6割を超える。
小水力発電は大規模なダムを造る従来の水力発電と違って、自然の水の流れを生かして発電するため、再生可能エネルギーのひとつとして注目を集めている。長野県内には固定価格買取制度の対象になる3万kW未満の水力発電設備が143か所もあり、合計で67万kWの電力を作り出すことができる。これだけで中型の原子力発電所1基分に相当する規模になる。
小水力発電所の典型例は2010年に稼働した「町川発電所」に見ることができる(図2)。県の北西部を流れる高瀬川からの農業用水路の中で、16メートルの落差がある場所に水車を設置して最大140kWの発電を可能にした。稼働後の2年目からほぼ100%の能力を発揮しており、昼間は近くの公共施設に電力を供給する一方、夜間の余剰分は電力会社に販売している。
環境省の調査によれば、長野県内で3万kW 未満の水力発電が可能な場所は1600か所以上ある。現在の発電所数の10倍以上もあるが、実際には大きな発電量を見込める効率的な場所は多くない。今後の大幅な増加を見込みにくいのが実情だ。
そこで長野県は全国で4番目に広い面積を生かして、太陽光発電を拡大する計画を開始した。2010年と比べて2020年には約3倍、2030年には約5倍の規模に増やす(図3)。水力発電やバイオマス発電と合わせて、県内のエネルギー自給率を2020年にほぼ100%にする目標を掲げている。
太陽光発電を拡大するうえでユニークな試みが「おひさまファンド」である(図4)。県南部の飯田市が全国に先駆けて2004年に開始したプロジェクトで、市民から広く出資を募り、その資金で市内の各所に太陽光発電システムを設置して、得られた収益を出資者に還元する。
現在までに導入設備は250か所以上に広がり、合計の発電能力はメガソーラーに匹敵する1.6MW(1600kW)に達している。売電による収益の分配も予定通り実施しており、その後も同様のファンドを3種類スタートさせて規模を拡大中だ。
2012年度も総額4億円の新しいファンドによる太陽光発電事業を開始する計画がある。7月から固定価格買取制度が始まり、太陽光発電の採算性が長期的に見込みやすくなったことも追い風である。飯田市を拠点にした市民参加型のメガソーラープロジェクトが全国各地に拡大する勢いになってきた。
2014年版(16)長野:「小水力発電で全国1位をキープ、農業用水路や砂防ダムでも水車を回す」
2013年版(16)長野:「止まらない小水力発電の勢い、2020年にエネルギー自給率77%へ」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.