太陽光発電:変換効率よりも出力1W当たりの単価に注目節電に効くシステム(1)(2/2 ページ)

» 2013年01月09日 09時00分 公開
[笹田仁,スマートジャパン]
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出力当たりの単価なら多結晶シリコン

 出力1W当たりの単価は、パネルの最大出力を価格で除算することで得られる。定価が明らかになっている住宅用パネルの価格で出力1W当たりの単価を計算してみたところ、以下のようになった。

  • 多結晶シリコン 467円〜600円程度
  • 化合物 590円程度
  • 単結晶シリコン 563円〜670円程度
  • ハイブリッド型 650円程度

 メーカーによって価格に差はあるものの、出力1W当たりの単価では、多結晶シリコンが優れているという結果になった。多結晶シリコンに続いて、化合物か単結晶シリコン、ハイブリッド型は変換効率が高い分、1W当たりの単価も高い。

 あくまでこれは定価から計算したものであり、実際に見積もりを取ると値引きがあるのが普通だ。購入する枚数によって値引き幅が変わることもある。しかし、値引きがあったとしてもこの傾向が大きく変わることはない。太陽光発電システムを構築を手掛ける複数の業者によると、実際の見積もりを見ても多結晶シリコンパネルが最も安価に調達でき、出力1W当たりの単価も最も安いという。

まとまった数を設置するなら多結晶シリコン

 出力1W当たりの単価と変換効率を考えると、多結晶シリコンのパネルは安価だが、単位面積当たりの発電量はやや劣るということになる。とはいえ、多結晶シリコンを使ったパネルの変換効率は技術開発によって上がってきており、単結晶シリコンの値に迫りつつあるほどだ。

 多結晶シリコンの太陽光発電パネルが活躍するのは、駐車場跡などの空き地に多数のパネルを並べるような場合だ。このようなときは変換効率よりも出力1W当たりの単価を重視するのが得策だ。並べてみて、最大出力がちょっと足りないと感じたら、さらにパネルを並べれば済む。

 参考までにメーカーが定価を明示している住宅向け2製品を例に、最大出力が50kWになるようにパネルを調達したらどれくらいの価格になるか比較してみよう。まずは、多結晶シリコンパネルの中でも変換効率が高い京セラの「KJ200P-3CRCE」(税込で10万5000円)を使った場合だ。この製品のパネル1枚当たりの最大出力は200Wだ。最大出力を50kWにするには、250枚のパネルが必要になる。250枚のパネルを定価で購入すると、合計で2625万円となる。

 一方、変換効率の高さをアピールするパナソニックのHITパネルの場合、最大出力が233Wの製品の価格が税込で15万2250円。このパネルを並べて出力を50kWにするには、大体214枚のパネルが必要だ。214枚のパネルを買いそろえると3258万1500円。多結晶パネルに比べると633万1500円も高くなるのだ。これだけの資金があれば、多結晶パネルを60枚以上購入できる。

 もちろんここでの試算は住宅向けパネルの定価を利用したものだ。とはいえ、パネルの種類による価格の傾向は住宅向けも産業向けも変わらない。1つの目安にはなるだろう。

住宅の屋根など、狭い場所に設置するならハイブリッド型も考慮

 では、単結晶シリコンのパネルやHITといった変換効率が高いパネルはどんな場面で役に立つのだろうか? 変換効率が高いということは、単位面積当たりの出力が高いということを意味する。つまり、狭い場所でなるべく多く発電させたい場合に有力な選択肢となる。太陽光発電パネルを設置する狭い場所といえば、住宅の屋根だ。

 例えば、住宅の屋根に合計5kW分の太陽光発電パネルを設置するとしよう。変換効率が16.9%で出力が195Wのシャープの単結晶シリコンパネルを使う場合は、26枚必要になる。一方、変換効率が14.8%で出力が200Wの京セラの多結晶シリコンパネルを使うと、25枚必要だ。

 ただし、ここで例に出した2製品はパネル面積が異なる。シャープのパネルは約1.15m2だが、京セラのパネルは約1.35m2だ。先ほど算出した合計5kWになる枚数を乗算してみると、シャープのパネルの合計面積は29.9m2、京セラのパネルは33.75m2

 変換効率が18.2%と高いパナソニックのHITパネルの場合はどうだろうか。1枚当たりの出力は233W。合計出力を5kWにするには22枚必要だ。パネル1枚当たりの面積は約1.28m2。22枚敷き詰めると、合計で28.16m2となる。シャープの単結晶シリコンパネル、京セラの多結晶シリコンパネルよりも狭い面積で済む計算になる。

年間発電量をある程度見積もろう

 狭い場所で実力を発揮するのは変換効率が高いパナソニックのHITパネルだが、すべての人にHITパネルが適しているとは言えない。屋根の形状によっては矩形のパネルをあまり多く並べられないということがある。このようなときは半分の面積のパネルを利用したり、屋根の形に沿うように作ってある三角形のパネルを使うということも必要だろう。

 パネルの形状よりも先に押さえておくべきことがある。おおよその年間発電量だ。日本においては太陽光発電パネルの設備利用率(発電設備をフル稼働させ続けた場合の発電量と、実際の発電量の比率)は12%とするのが相場だ。あまりに低い値にびっくりする人もいるかもしれないが、日本の気候を考えるとこの程度の値に落ち着く。

 では、合計出力が5kWの太陽光発電システムを1年間動作させ続けたら、どれくらい発電するだろうか。計算すると以下のようになる。

24時間 × 365日 ×5kW ×0.12 = 5256kWh

 仮に全量を1kW当たり42円で売電すれば、1年間に22万752円の収入を得られることになる。住宅の場合は余剰分の買い取りになるので、売電収入はその世帯の生活パターンによって変わる。

 年間発電量を見積もったところで、先ほど面積を試算した3種類のパネルの価格を計算してみよう。ここでもすべて定価で計算する。京セラのパネルは1枚10万5000円で25枚必要なので、パネルの価格だけを見ると262万5000円かかることになる。

 ではシャープのパネルはどうだろうか。1枚10万9830円で26枚必要だから、合計で285万5580円となる。パナソニックのHITは、1枚15万2250円で22枚必要になるので、334万9500円にもなる。5kWにするために必要な枚数を敷き詰めた面積の差は5m2程度だが、価格にすると72万4500円もの差が付くのだ。

 年間に発電できる電力量を頭に入れて、売電収入で機器にかかるコスト、設置工事にかかるコストをどれくらいの期間で回収できるのかを大まかに見積もって判断したいところだ。場合によっては多結晶シリコンのパネルを選んで、設置枚数を減らすという決断もあるだろう。たとえ出力が小さく発電量が少なくとも、早期に初期コストを回収できてしまえば、その後は太陽光発電システムが生む電力は完全な利益となるのだから。

悪条件に強く、カタログ値以上の性能を発揮する化合物パネル

 最後に、ソーラーフロンティアが製造販売している化合物(CIS)パネルについて説明しよう。このパネルは安価だが、変換効率は13%とほかの製品に比べて低い。しかし、CISパネルは設置して使い始めてみると、カタログ値からは想像もできない実力を発揮することがあるのだ。

 例えば図6を見てほしい。これはSBエナジーが公開しているデータだ。北海道の試験場に並べた各社の太陽光発電パネルの、出力1kW当たりの発電量を示している。図6は2013年1月8日の結果を表示したところだ。これを見ると変換効率では他社製品に比べて明らかに低いソーラーフロンティアの製品が、他社製品を圧倒するほどの性能を見せている。

図6 SBエナジーが公開している試験データ。各社の太陽光発電パネルの1kW当たりの発電量を示している。変換効率では劣るはずのソーラーフロンティアの製品がかなり発電している。出典:SBエナジー

 ソーラーフロンティアによると、このような実力を発揮する理由としては、まず最初に使い始めると発電量が上がるという独特の性質が挙げられるという。低めに見積もっても4〜5%上がるという。

 もう1つ。悪条件に強いという点が考えられるという。一般に太陽光発電パネルは、パネルの温度が上がると性能が落ちる。太陽光の照度が落ちればもちろん発電量は少なくなる。パネルに影が差すと、驚くほど性能が落ちる。

 ソーラーフロンティアのCISパネルは、パネルが高温になっても、太陽光の照度が落ちても、パネルに影が差しても堅実に発電し続けるという。さらに、何年も使っても性能がほとんど劣化しないという特長もある。

 もちろん、ソーラーフロンティアの製品がどれほどの実力を発揮するかは設置する場所によって変わる。期待して設置しても、期待に応えてくれないこともある。興味のある人は設計、施工業者に相談してみると良いだろう。

パワーコンディショナーの効率も忘れてはならない

 今回は市場に流通している主な太陽光発電パネルの特長と適した用途を紹介するだけで終わってしまったが。太陽光発電パネルが発電した直流の電力を交流に変換するパワーコンディショナーの実力も発電量を大きく左右する。直流を交流に変換する効率が悪いと、性能の高いパネルを並べても良い結果は出ない。

 業者に設置を依頼するとき、設計が悪いとパネルの実力を発揮できないということもある。施工が悪いと、あっという間に故障ということも考えられる。まずは、それぞれの方式のパネルの特性をつかんで、設置場所、予算、回収期間から考えてみてはいかがだろうか。

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