急浮上する水素エネルギー、自動車から発電所まで用途が広がる2014年の電力メガトレンド(4)

再生可能エネルギーに続いて注目を集めているのが水素エネルギーだ。水素を燃料にして走る次世代のエコカーが2015年に市販される予定で、早くも「水素ステーション」が大都市圏に登場した。水素を使った発電所の建設計画もあり、大量の水素を供給するためのインフラの整備が始まる。

» 2014年01月09日 07時00分 公開
[石田雅也,スマートジャパン]

 水素は太陽光のような自然エネルギーではないものの、CO2を排出しないクリーンなエネルギーに転換することができる。酸素と反応して、電力と熱と水を発生する。エネルギーを生み出す効率が高く、用途は自動車から発電設備の燃料まで幅広い(図1)。水素エネルギーの利用拡大に向けた取り組みが2014年から活発になっていく。

図1 エネルギーとしての水素の利用可能範囲(画像をクリックすると拡大)。出典:経済産業省

水素ステーションが大都市に広がる

 特に期待が大きいのは自動車の分野である。トヨタ自動車やホンダが2015年に、水素で走る燃料電池自動車の市販を開始する。車体の前面に大量の空気を取り込むためのフロントグリルを備えているのが特徴で、水を排出しながら走る(図2)。化石燃料で作った電力で走る電気自動車よりも環境に優しく、次世代のエコカーと呼ばれる。

図2 燃料電池自動車のコンセプトカー「TOYOTA FCV CONCEPT」。出典:トヨタ自動車

 当面は燃料の水素を補給するインフラづくりが課題になる。ガソリンと同じように水素を販売するための「水素ステーション」の整備が不可欠だ。政府は燃料電池自動車の市販開始を見込んで、2013〜2015年度の3年間に大都市圏の100カ所に水素ステーションを設置する計画を進めている。

 民間でも石油大手のJXグループなどがガソリンスタンドに併設する形で水素ステーションの拡大に乗り出した(図3)。燃料電池自動車に水素を満タンにするまでの時間はガソリンと同様の3分程度で済み、実用性は電気自動車を上回るとも言われている。車両の価格が下がり、水素ステーションの数が増えていけば、電気自動車よりも早く普及する可能性がある。

図3 水素ステーションの設置例(名古屋市の「神の倉水素ステーション」)。出典:JX日鉱日石エネルギー

2015年の稼働を目指す「水素発電所」

 自動車とともに水素エネルギーの拡大を見込めるのが発電設備だ。すでに家庭用のガスコージェネレーションである「エネファーム」では、水素を燃料にして電力と熱を作り出す仕組みが定着している。エネファームの場合はユニットの内部でガスから水素を取り出す必要があり、都市ガスなどの供給が前提になる。

 東京湾岸で火力発電所が集まる川崎市では、新たに水素を燃料に使った発電所の建設計画が始まろうとしている。「川崎臨海部水素ネットワーク」と呼ぶプロジェクトで、大量の水素を供給できる体制を整備しながら、世界で初めての「水素発電所」を実用化する試みだ(図4)。

図4 「川崎臨海部水素ネットワーク」の展開構想(画像をクリックすると拡大)。出典:川崎市総合企画局

 この構想では川崎市の臨海地域に「水素供給グリッド」を張りめぐらせる。海外のガス田などで大量に発生する水素をタンカーで輸入して、発電所のほかに地域内の工場や遠隔地の水素ステーションにも供給できるようにする。水素発電所と合わせて2015年の完成を目指している。

 すでに大量の水素を輸送・貯蔵するプロセスは完成している。川崎市と共同で水素ネットワークを推進する千代田化工建設が、隣接する横浜市内の事業所に実証プラントを建設して実用性を確認済みだ(図5)。

図5 大量の水素を輸送・貯蔵するプロセス(上、画像をクリックすると拡大)、横浜市内の実証プラントで利用する貯蔵タンク(下)。出典:川崎市総合企画局、千代田化工建設

 水素は国内の製鉄所などでも副生物から大量に作ることができる。北九州市では2011年に「水素タウン構想」を開始して、新日鉄住金の八幡製鉄所から市内各所にある水素ステーションや燃料電池に水素を供給する取り組みを続けている。

 いよいよ水素をエネルギーとして活用する機運が高まってきたことを受けて、政府は2014年3月までに「水素社会」に向けたロードマップを策定する方針だ。水素の製造から貯蔵・輸送、利用までを包含した形で、技術面を中心に中長期の施策を盛り込む。その内容をもとに、官民一体で水素社会の実現に向けて大きく踏み出すことになる。

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