バイナリー発電に限らず、再生可能エネルギーの国内需要は、大部分が東日本大震災をきっかけとして生まれたといっても過言ではない。震災直後は興味が喚起されただけだったが、2012年7月からFITが始まり、稼働する発電施設が多く現われた。
FIT開始から1年以上が経過し、年間の発電効率や売電による利益率などが各種発電システムからはじき出されて来たことで、現実が見えてきた。導入者側として具体的に比較検討ができるようになってきたのが、2013年から2014年にかけての傾向である。
具体的に太陽光発電と比較してみよう。北関東地区に建設した出力1.3MWのメガソーラーの年間発電量は、およそ154万kWhであるのに対し、出力250kWのバイナリー発電の年間発電量は、年間稼働時間を8000時間と想定した場合160万kWhで、ほぼ互角となる(図4)。建設コストで比較すると、バイナリー発電は太陽光発電のおよそ半額であり、設置面積も数分の1で済む。
さて、バイナリー発電の実際の設置コストだが、条件によって6000〜8000万円と、およそ2000万円の差が出るのはなぜだろうか。これは熱源がどのような状態かによって、熱を作動流体に受け渡す設備の費用が大きく変わるからである。
Thermapowerは本体以外にも、熱源から作動流体に熱を渡して蒸気に変える蒸発器、タービンを回した後の蒸気をもう一度作動流体まで戻す凝縮器、冷却塔などの熱交換設備が必要になる(図5)。
温泉を利用した場合など、熱源が最初からお湯の場合は、比較的安価に設備が導入できるのだが、蒸気の場合は幾分高くなる。最も高いのは工場などの高温の排ガスから熱を受け取るための熱交換設備だという。もちろん、設備によっては熱を得られるポイントは1カ所だけではないだろう。どこからどのような形で受け取れば効率的で、しかも安価にできるか、それを見極めるのもエンジニアの腕ということになる。
導入コストに幅がある2つ目の理由は、発電機の規模だ。バイナリー発電は、既存施設に併設するタイプのシステムであるため、設置費のコストが大きくなる。これが弱点である。
発電規模を小さくしても、設置コストはそれほど下がらない。また系統連系するためのコストも、発電規模の大小ではほとんど変わらない。従って、あまりに小規模な設備は、コスト面で不利になる傾向がある。
もちろん、存在する熱量に応じた出力規模の設備を入れるべきではあるが、そこは売電による収益バランスが重要になる。その点では、熱量の多いところでは100kWクラスの設備を複数設置して規模を調整するという方法がよい。リスク分散という意味でも理にかなっている。
天然資源という意味での地熱エネルギーの量では、日本は米国、インドネシアに次いで世界第3位。産業廃熱やゴミの焼却熱まで加えれば、さらに豊富な国産エネルギー資源に化ける。ただこれらの熱源は細かい単位で分かれて存在しており、「原発の代替」といった大規模発電をイメージしていては、上手く活用できない。
バイナリー発電は、電気エネルギーの生成に掛かる燃料の海外依存度を下げる方法としては規模が小さい。だが、地産地消のエネルギーとして地方での雇用を創出するというメリットもある。われわれは日本中に分散しているこの細かい熱資源の活用に対して、ようやく第一歩を踏み出したところだ。
小寺信良(こでら のぶよし)
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
Twitterアカウントは@Nob_Kodera
近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)
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