再生エネの大量導入を助ける直流送電、海を越え240kmを接続電力供給サービス

スイスABBは、2015年1月12日、ノルウェーとデンマークを結ぶ全長240kmの高圧直流送電線(HVDC)が完成したと発表した。50万Vで170万kWの電力を送る能力がある。再生可能エネルギーの導入量を拡大する際に有用な技術であり、日本国内の連系線強化にも役立つ。

» 2015年01月23日 07時00分 公開
[畑陽一郎,スマートジャパン]

 風力による発電が最も普及しているのは、北欧の国デンマークだ。単に風車を大量に導入しているというのではなく、年間総発電量に占める風力の比率が高い。2014年には40%弱を風力発電が担ったほどだ(関連記事)。

図1 ノルウェーと南のデンマークをつなぐ高圧直流連系線の経路

 デンマークがこれほど大量の風力発電を導入できた理由の1つが、豊富な国際連系線を活用していること(図1)。海を挟んで北のノルウェー、東のスウェーデン、陸続きのドイツとの間に大容量の連系線を引いた。ノルウェーは年間発電量の95%を水力で賄う。風力や火力(コージェネレーション)が盛んなデンマークとは互いに補い合う関係にある。

 スイスABBは、2015年1月12日、ノルウェー南部の港湾都市Kristiansandと、デンマーク西部のTjeleを結ぶ全長240kmの高圧直流送電(HVDC:High Voltage Direct Current)線が完成したと発表した(図2)。北海のスカゲラック海峡を渡る連系線である。海峡の幅は約120km。水深は200m以上。ここを電圧50万V、容量170万kWのHVDCで送電する。

図2 変電設備の外観(クリックで拡大) 出典:ABB

世界記録を2つ実現

 ABBはこれまで両国を結ぶ連系線を1970年代中ごろに2つ、1993年に1つ建設している。3つの合計容量は105万kWだ。1993年時点のデンマークは風力発電の導入が進んでおらず、全発電量に占める風力の比率は3%以下だった。

 今回も含め4つの連系線は全てHVDC技術を利用している。ABBによれば今回の連系線には2つの世界記録があるのだという。

 1つは自励式HVDCとして送電電圧が最も高いことだ。ABBが1954年にHVDC技術を開発した際、他励式という「旧世代」の方式を適用した。1990年代に開発された自励式は、IGBTなど当時の最新の半導体技術を利用しており、交流系統の安定化を保ちやすい。低コストで設備を比較的小さく作り上げることができるという特徴もある。スカゲラック海峡をまたぐ4つの連系線のうち、3つは他励式。今回は初の自励式だ*1)

 もう1つの記録は、今回のHVDCが1993年に完成した他励式の送電線を利用し、双極モードで運用することだ。双極モードを採用した理由は両国の交流系統に掛かる変動を最小限に抑えること。今回の送電線では、送電方向が年間1000回以上切り替わると予測されている。何の対策も講じない場合、系統に与える影響が大きくなる。

 双極モードで運用するために、電力制御・保護システム全体をコンピュータ制御する「MACH制御システム」を利用。異なる電力変換手法を主幹制御した(図3)。

*1)自励式HVDCプロジェクトのうち、完成したものは全世界で16存在する。今回のHVDCはABBとして15番目の事例だという。

図3 HVDC向けの試験設備の外観 出典:ABB

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