植物工場事業で“もうけ”を狙うパナソニック、カギを握る省エネ技術スマートアグリ(2/3 ページ)

» 2015年05月28日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

人工光型植物工場の課題をどう解決するか

 季節や環境に左右されず、農作物を安定供給できる――と、メリットも多い人工光型植物工場だが、採算性の確保に向けた課題はまだまだ多い。松葉氏はその具体例として、栽培した農作物の販売先の確保といった出口戦略、植物工場で栽培する農作物の品質を均一にするための技術やノウハウの確立といった生産面での課題、さらに人件費や光熱費などの運用面でのコストをいかに抑えるかといった課題を挙げた(図3・4)。

図3・4 人工光型植物工場の課題(クリックで拡大)出典:パナソニック

「特殊空調技術」で重量歩留まり95%を実現

 パナソニックの調査によれば、日本国内の植物工場の約8割が赤字だという。ではこうした課題に対して、パナソニックはどう取り組んでいるのか。松葉氏がポイントの1つとして挙げたのがパナソニック独自の「特殊空調技術」の活用だ(図5)。

図5 特殊空調技術で均一な栽培環境を構築(クリックで拡大)出典:パナソニック

 植物工場の生産性を表現する場合「日産3000株」というように「株」という単位をよく見かける。しかし松葉氏は「重要なのは株数ではなく“重量歩留まり率”だ」と述べる。重量歩留まり率とは、ある農作物の種や苗が出荷可能な大きさ(重量)まで育つ割合を表したものだ。この割合が高いほど、効率良く農作物が育っているということになる。

 この重量歩留まり率を下げる要因となるのが、育成環境に差が生まれてしまうという点だ。植物工場内で農作物を育てる棚の高さによって、高い棚は温度が高く、低い棚は温度が低いという状況がなどが発生する。「一般的な植物工場では棚の高さによって4〜6℃の温度差があり、中には10℃以上の差があるものもある。こうした『上の棚は夏で下の棚が冬』というような工場とは呼べない環境では重量歩留まり率は向上しない」(松葉氏)。

 パナソニックは同社独自の特殊空調技術を活用して棚間温度差を1.5℃以内に抑え、工場の隅々まで栽培環境を均質化している。これにより一般的な植物工場の重量歩留まり率が60〜70%なのに対し、パナソニックの植物工場では約95%を実現するという。

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