松葉氏は植物工場の運用コストについて「日本国内における植物工場の約7割が蛍光灯を使用している状況。さらに蛍光灯から発生する熱を冷ますために空調を稼働させており、電気料金が高額であるという点が赤字に大きく影響している」と指摘する。
パナソニックの植物工場では、光源に全てLED照明を採用。さらに栽培棚に反射板を設置することで、少ないLED照明で効率良く栽培できるように工夫しているという。反射板を設置すると栽培棚に熱がこもりやすくなるが、これも先述した特殊空調技術で解決。これにより照明設備の初期投資および消費電力を半減させている。
こうしたLED照明と特殊空調技術を組み合わせた省エネ技術の導入により、パナソニックの植物工場は蛍光灯を使用している工場と比較して消費電力を60%削減し、他のLEDを採用している植物工場と比較しても約3割以上の削減できるという。さらにパナソニックは種まきや、苗の仮植え、検査といった属人的な工程を自動化する装置も開発している。こうしたまさに“工業的アプローチ”によって、省人化によるコスト削減も可能にしている(図6・7)。
パナソニックは、こうした工業的アプローチにより生産と運用の両面での効率化を図った植物工場を商品として販売していく方針だ。松葉氏は「これまで植物工場事業は補助金で成り立ってきた部分もある。しかしパナソニックの運用コストを大幅削減できる植物工場であれば、全国の空き工場や倉庫を活用することで、レタス換算で日産2000株の生産能力を持てば黒字化が可能であると考えている」と述べる。この場合の初期投資費用は約2億円で、工場の設計から施工までもパナソニックが請け負うことで、契約後6カ月で工場の立ち上げが可能だという。
さらにパナソニックは栽培ノウハウを持たない異業種でも植物工場事業に参入できるよう、PC上からマウスをクリックするだけで栽培管理が行えるサービスの開発も目指す方針だ。加えて遠隔監視システムや、専用のウェアラブルカメラを利用して現場で発生した課題を解決するといったICTを活用するサポート体制の構築も図っていくという。
植物工場の最も大きな課題でもある出口戦略については「現時点ではまだ確立できていない。将来的には植物工場だけでなく販路の提供も行える体制を構築していきたい」(松葉氏)としている。その中で松葉氏が将来的なビジョンとして挙げたのが、B2B市場の開拓だ(図8)。
植物工場で生産した農産物は、異物が混入する可能性も少なく農薬も使わないため洗わずに食べても問題が無いという。さらに通年にわたって均一な品質のものを一定の価格で安定供給できるといった複数のメリットを生かして、食品メーカーやレストランなどのB2B需要の開拓を目指すという狙いだ。
さらにLED照明を利用した栽培では、“苦いレタス”や“甘いレタス”といった味や食感の調整に加え、特定の栄養素を多く含ませるといったことも可能になる。こうしたパナソニックオリジナルの「栽培レシピ」を開発し、露地物野菜との差別化を図ることで植物工場産野菜の新規需要を開拓してきたいとしている。
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