“実用的な人工光合成”実現へ前進、太陽光から水素へ変換効率22%を達成自然エネルギー

オーストラリアのメルボルン近郊にあるモナシュ大学の研究チームは、太陽光から水素への変換で、世界最高記録となるエネルギー変換効率22%の生成装置を開発したと発表した。

» 2015年08月27日 09時00分 公開
[三島一孝スマートジャパン]

 モナシュ大学(Monash University)の研究チームによって、新たに開発された水素の生成装置は、従来のエネルギー変換効率の世界記録である18%を突破し、22%を達成したという。これが事実であれば、世界最高記録を達成したことになる。

 再生可能エネルギーを利用した発電が普及するにつれ、その発電量の不安定さや変動幅の大きさが注目されるようになっている。そのため「エネルギーの貯蔵」が大きなテーマとなっているが、蓄電池は蓄電容量に対してコストが高い。そこで注目を集めているのが、太陽光発電などで得たエネルギーを「水素」に変換して貯蔵する「Power to Gas」である。エネルギーを水素として保存する利点には、エネルギー密度の高さや大量に貯蔵できる点、長期保存してもエネルギーが減ることがない点、使用時に排出されるのが水だけでクリーンであるという点などがある。

 しかし、一方で水素への変換で一定量のエネルギ―が失われるというデメリットもある。そこで、研究が盛んになっているのが、太陽光発電で得たエネルギーをより高い効率で、水素に変換するということだ。

22%の変換効率を達成

 2015年4月には日本の理研がエネルギー変換効率15.3%を実現したと発表した(関連記事)が、今回モナシュ大学の研究チームが達成したのは22%であるという。

 同大学化学科教授で主任研究員であるレオネ・スペッシア(Leone Spiccia)氏は「この変換効率を達成した技術は、水に電気を通し酸素と水素に分ける電気分解プロセスを活用したものだ。今回のブレイクスルーにより、持続可能な燃料として期待される水素の安価でクリーンな提供方法の実現に一歩近づいた」と述べている。

photo 一般的な水分解装置の模式図 出典:理研

 また共同研究者である同大学教授のドグ・マクファーレン(Doug MacFarlane)氏は「太陽電池を最も効果的に働かせるためのチューニングの方法がブレイクスルーの大きな要因となった」と述べている。今回の研究成果で活用した技術の詳細については学術誌「Energy and Environmental Science」で説明している。同論文では、今回の技術について「実用的な人工光合成」の実現に大きく貢献すると述べている。

 「人工光合成」技術は、今回の水の電気分解により水素と酸素を分離するだけでなく、これに二酸化炭素を合成して有機化合物を生成するという2段階でのプロセスが必要だ。そして、日常生活で実用化するには最終的な有機化合物までの変換でエネルギー変換効率10%以上が求められている。ただ現在はNEDOが2015年3月に発表した2%が世界最高だとされている(関連記事)。

 モナシュ大学の開発した技術は高効率である一方で、高価な触媒材などを用いていないため、低コスト化も実現できるとしており、将来的に“実用的な人工光合成”を実現するためにカギを握る技術だと同論文では述べている。

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