太陽光発電を抑制する一方で、風力・中小水力・地熱発電を拡大する対策が急務だ。それぞれで課題が残っているが、共通する問題点は運転開始までに長い期間がかかることである。バイオマスと太陽光は事業化を決定してから運転を開始するまでに2〜4年で済むのに対して、地熱・風力・中小水力では一定規模の発電設備を稼働できるまでに5年以上かかるケースが多い(図12)。
政府は開発期間を短縮できるように規制改革を進めているものの、大幅に期間を短縮できる状況には至っていない。地熱発電では地下に資源が豊富に存在する国立・国定公園の規制が厳しく、環境影響評価(アセスメント)に3年以上の期間が必要になる。規制緩和で開発プロジェクトが増えてきたが、それでも全国で100件に満たない。そのうち発電設備の建設を開始したプロジェクトは30件程度にとどまっている(図13)。
同様に風力発電でも環境影響評価の負担は大きいが、手続きを簡素化することはむずかしい。陸上の風力発電では周辺の住民に対する騒音を問題視するケースが増えてきた。建設用地の選定と評価は時間をかけて入念に実施する必要がある。その点から大規模な風力発電の開発は洋上に移り始めている。
2014年度に洋上風力の買取価格が設定されたことを受けて、全国各地に開発プロジェクトが広がってきた(図14)。現在までに発電事業者が決定して開発に着手した中では、新潟県の村上市の沖合に建設する22万kWの洋上風力発電が最大だ。2024年度に運転を開始する予定で、年間の発電量は18万世帯分に相当する。村上市の総世帯数(2万2000世帯)の8倍以上に匹敵する電力を供給することができる。
環境影響評価に長期を要する地熱や風力と違って、中小水力では環境影響評価の必要がない。その代わりに河川の水を利用するための水利権の調整に時間がかかる。事業化を決定してから買取制度の認定を受けるまでに平均して2年程度、さらに運転を開始するまでに最長で5年もかかるケースがある(図15)。
その間にコストが積み上がるが、小さな水力発電設備では年間の発電量が少なく、採算をとるのがむずかしい。稼働後も発電設備に流れ込むごみの清掃をこまめに実施する必要があるため、ほかの再生可能エネルギーと比べて運転維持費が多くかかる難点もある。
全国には中小水力発電の導入が可能な場所は2万カ所以上も存在する。地域ぐるみでエネルギーの地産地消に取り組むうえで、中小水力発電は有効な手段の1つだ。国や自治体が支援事業を拡大して、採算性の問題を解決しながら、水力発電機の効率改善を進める必要がある。
政府は2016年度の予算で初めて水力発電の促進事業に33億円を投入して補助金制度を開始する予定だ。水力発電の事業化を判断するために必要な流量調査のほか、既設の水力発電所の設備更新にも補助金を交付する。太陽光に偏重した再生可能エネルギーは2016年を節目に、新しいフェーズへ移っていく。
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