パワーエレクトロニクス最前線 特集

超省エネ社会に貢献、「ダイヤモンド」パワーデバイスの実用へ前進省エネ機器(1/2 ページ)

さまざな機器の省エネを実現するとして、高性能化に期待が掛かるパワーデバイス。実用化はまだ先とみられているが、「究極のパワーデバイス材料」として注目されているのがダイヤモンドだ。金沢大学などの共同研究グループは。こうしたダイヤモンド半導体を用いたパワーデバイスの実用化で課題となっていた反転層チャネルMOSFETの作製に成功した。

» 2016年08月24日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 金沢大学 理工研究域電子情報学系の松本翼助教授、徳田規夫准教授らの研究グループは2016年8月23日、ダイヤモンド半導体を用いた反転層チャネルMOSFETを作製し、その動作実証に成功したと発表した(図1)。産業技術総合研究所 先進パワーエレクトロニクス研究センター ダイヤモンドデバイス研究チームの山崎聡 招へい研究員、加藤宙光 主任研究員、デンソーの小山和博 担当課長らとの共同研究によるもので、これは世界初の成果だという。

図1 開発した反転層チャネルダイヤモンドMOSFET  出典:JST

 あらゆる産業でさらなる省エネを図る上で、Si(シリコン)半導体を用いた反転層チャネルMOSFETやIGBTといった「パワーデバイス」の高性能化に大きな注目が集まっている。自動車や新幹線、飛行機、工業機器、医療機器など、さまざまな機器の電力変換効率を高め、省エネに貢献できるからだ。

 現在のSi半導体はその物性値から性能限界が見えている。そこで注目されているのがSiC(シリコンカーバイド)半導体、GaN(窒化ガリウム)半導体といった「ワイドバンドギャップ」と呼ばれる半導体群だ。より省エネが図れる次世代パワーデバイスとして、新幹線やパワーコンディショナーに採用する事例も増えてきた(関連記事)。

 そしてこうした次世代パワーデバイスより、さらに高い熱伝導率や絶縁破壊電界を有し、大きな電圧や電流が必要な領域での大幅な省エネルギー化につながると期待されているのがダイヤモンドを用いた半導体である。より消費電力が少なく、さらに薄型化や軽量化も可能な究極のパワーデバイスを実現するとして注目が集まっている。

 しかし、実用に向けては課題が残る。高品質な酸化膜およびダイヤモンド半導体界面構造の形成が難しく、これまでパワーデバイスにおいて重要な「ノーマリーオフ特性」を持つダイヤモンド半導体を用いた反転層チャネルMOSFETは実現していなかった。ノーマリーオフ特性とは誤動作を防ぎ、消費電力を最小限に抑える特性のこと。パワーデバイスにおいて重要かつ最低限必要とされる特性だ。

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