水で作れる電解液を新発見、リチウムイオン電池を安く安全に蓄電・発電機器(1/2 ページ)

東京大学の研究グループが、新しいリチウムイオン電池の電解液として利用できる「常温溶融水和物(ハイドレートメルト)」を発見した。無毒な水をベースとした電解液で、リチウムイオン電池の安全性向上や価格低減に貢献できる可能性があるという。

» 2016年08月30日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 東京大学 大学院工学系研究科の山田裕貴助教と山田淳夫教授らの研究グループは、水をベースとする新しいリチウムイオン伝導性液体「常温溶融水和物(ハイドレートメルト)」を発見したと発表した。安全かつ安価な新型蓄電池の実現に貢献する成果だという(図1)。科学技術振興機構の袖山慶太郎さきがけ研究員、国立研究開発法人物質・材料研究機構の館山佳尚グループリーダーらとの共同研究で発見した。

図1 発見した常温溶融水和物(ハイドレートメルト)のイメージ 出典:東京大学

 分散電源社会を実現する鍵として蓄電池への期待が高まり、さまざまな次世代電池の開発が活発になっている。しかし現在の主流はリチウムイオン電池であり、今後しばらくは引き続き市場の中心を占めると考えられる。そのリチウムイオン電池の電解液には有機溶媒が用いられているが、これは可燃性が高く、火災や爆発を防ぐための安全対策が必須である。

 そこで電解液に使われている有機溶媒を、不燃かつ無毒で安価な水に置き換えた「水系リチウムイオン電池」の研究開発も行われている。しかし、水は有機溶媒と比べて電圧耐性が低く、低い電圧でも水素と酸素に電気分解されてしまう課題があった。研究グループによれば水系リチウムイオン電池の電圧は基礎研究レベルでも2V(ボルト)以下となっており、2.4〜3.7Vの電圧を有する市販のリチウムイオン電池に対して電圧とエネルギー密度で劣るため、実用開発が見送られてきたという。

 研究グループはこうした中で、水をベースとした新たなカテゴリーのリチウムイオン伝導性液体で、実用に耐えうる性質を持つハイドレートメルトを発見した。特定のリチウム塩2種と水を一定の割合で混合すると、一般的には固体となるリチウム塩二水和物が常温で安定な液体として存在することを確認したという(図2)。

図2 開発した常温溶融水和物(ハイドレートメルト) 出典:東京大学

 一般的な水溶液は1.2V程度の電圧で酸素と水素に電気分解されるのに対し、発見したハイドレートメルトは、3V以上の高い電圧をかけても分解しなかった。理化学研究所のスーパーコンピュータ「京」を用いた解析の結果、この耐電圧性能は一般的な水溶液ではありえない特殊な溶液構造に起因していることが分かったという。さらにこうした高電圧耐性に加え、優れたリチウムイオン輸送特性を備えており、リチウムイオン電池用の水系電解液として応用可能であることも分かった。

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