水で作れる電解液を新発見、リチウムイオン電池を安く安全に:蓄電・発電機器(2/2 ページ)
研究グループではこのハイドレートメルトを用い3.1V級と2.4V級のリチウムイオン電池を試作したところ、水を用いた電解液で初めて可逆動作に成功。従来2V以下に制限されていた水系リチウムイオン電池の電圧が、有機溶媒を使った商用のリチウムイオン電池と同等レベルまで引き上げられることを示した(図3)。
図3 ハイドレートメルトを電解液とした3.1V級リチウムイオン電池(a)と、2.4V級リチウムイオン電池(b)の充放電挙動(クリックで拡大) 出典:東京大学
また、エネルギー密度においても市販の2.4V級リチウムイオン電池と同等以上の性能を発揮し、充電時間も6分以下と高速な充放電が可能であることも確認したとしている(図4)。
図4 ハイドレートメルトを電解液としたリチウムイオン電池の電圧、容量およびエネルギー密度のプロット。一般的な水系電解液を用いた場合の電圧は2V以下、エネルギー密度は100Wh/kgが限界であったのに対し、ハイドレートメルトを電解液とした場合の電圧は2.4〜3.1V、エネルギー密度は100Wh/kgを超えており、有機電解液を用いた市販リチウムイオン電池と同等の性能を実現できるとしている(クリックで拡大)出典:東京大学
研究グループでは今回の成果について、「可燃・有毒・高価な有機溶媒に替わり水をベースとした溶解液を利用することで、電池の過充電や破砕などの誤使用時における爆発・火災事故のリスクを限りなく低下させることができる。また、事故などによる電解液漏えいが起こったとしても、無毒な水を溶媒として使っているため、人体や環境に対する悪影響も小さい。エネルギー密度を犠牲にすることなく、格段に安全性の高い蓄電池システムを構築可能になる」としている。
また、発見したハイドレートメルトは自然界に豊富に存在する水が電解液原料になることに加え、既存のリチウムイオン電池では必須となっている電池および電池材料の生産工程における厳密な禁水環境(ドライルーム)を撤廃することができるため、生産設備の簡素化が可能になり、電池のコスト削減にも貢献するとしている。
研究グループでは今後、今回発見したハイドレートメルトが示す異常物性の起源解明と、さらなる新機能の開拓を行い、新たな学術領域としての確立を目指す。また、ハイドレートメルト電解液が可能にする新しい蓄電池デバイスの実用化に向けた問題抽出を行い、開発を進めていく方針だ。
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