中国とインドが悟る、石炭に魅力なし自然エネルギー(1/4 ページ)

全世界の石炭火力発電の状況をまとめた報告書「Boom and Bust 2017」は、計画段階から許認可、建設に至る世界的な動向に「乱流」が生じたことを指摘した。これまで増設に次ぐ増設を続けてきた中国とインドが方針を180度転換。OECD諸国と歩調を合わせた形だ。需給バランスや発電コストが主な要因だと指摘する。全世界で唯一、この流れに沿っていない国についても指摘した。

» 2017年03月24日 15時00分 公開
[畑陽一郎スマートジャパン]

 中国とインドで100以上の石炭火力発電所の開発プロジェクトが凍結。二カ国で68ギガワット(GW)分の発電所の建設が停止。全世界でも建設の開始が62%減少――石炭火力発電所の動向を追う米End Coalが2017年3月21日に発表した内容だ(図1)*1)

*1) End Coalに協力するCoalSwarmとSierra Club、Greenpeaceが石炭火力発電所の建設計画から運用までの開発動向をまとめた報告書「Boom and Bust 2017」を公開。報告書をまとめた3団体が共同で声明を発表した。

図1 「Boom and Bust 2017」が注目した12カ国 政策的に石炭火力発電所の増設を延期した中国とインド(緑色)の他、課題がある10カ国(赤色)を示した。西からエジプト、トルコ、パキスタン、バングラデシュ、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、韓国、日本。日本は先進国ながら韓国とともに赤色で示されている 出典:本誌が作図

石炭火力の新設は経済的に釣り合わない

 中国とインドは電力が不足しているのではなかったのか*2)。なぜ火力発電の中で最も安価な石炭火力から手を引き始めたのか。

 理由は複数ある。第一に電力需要自体の伸びが低減していること。これによって大規模な発電所の設備利用率が低下している。すると大規模な発電事業者の収益が低下し、設備投資を手控えるようになる。今回の報告書ではこの理由が最大であると指摘している。

 「数多くの場所で建設の凍結が始まった。(これまでの10年間と比較すると)異例なことだ。中国政府とインドの銀行家が、これ以上の石炭火力発電所の建設を資源の無駄遣いだと認識し始めている。建設中止は気候変動や雇用にもプラスの効果をもたらしており、さまざまな条件を見ると、このような変化は止まらない」。Boom and Bust 2017に基礎データを提供した米CoalSwarm*3)でディレクタを務めるTed Nace氏は発表資料でこのように語っている。

 理由は他にもある。第二に再生可能エネルギーを用いた発電コストが十分に下がり、石炭火力の魅力が低下したことだ。第三に火力発電の中で最も二酸化炭素排出量が多く、地球温暖化防止の取り組みに反するからだ。深刻な大気汚染の原因にもなる。一部の発展途上国では、農業との間で水資源の奪い合いになるという問題も起きている。

 Greenpeaceで石炭と大気汚染に関するシニアグローバルキャンペーン担当を務めるLauri Myllyvirta氏は発表資料の中で次のように述べている。「2016年は大きな転換点だ。中国はほぼ全ての新規プロジェクトを停止した。クリーンエネルギーの驚異的な成長によって、既存の石炭火力発電所が『冗長化』されたからだ。2013年以来、新たに必要になった全ての電力は化石燃料以外から得ている」。

*2) 中国の一次エネルギー消費は1975年から2015年まで年率5%以上で増加した(関連記事)。インドは2013年時点で電化率が81%にとどまり、2億3000万人以上の国民が系統電力を利用できなかった。
*3) CoalSwarmは研究者の国際ネットワーク。石炭関連事業の特定と追跡を可能とするGlobal Coal Plant Trackerを開発した。2010年1月以降に計画された出力30メガワット(3万キロワット)以上の石炭火力発電所の開発状況と運転状況を監視している。

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