発電する衣服を実現、超薄型の有機太陽電池を新開発太陽光

理化学研究所と東レの共同研究グループが、高い熱耐性を持つ超薄型有機太陽電池の開発に成功。最大発電効率は10%で、布などに加熱圧着しても性能劣化がほとんどないという。

» 2018年04月18日 07時00分 公開
[陰山遼将スマートジャパン]

 理化学研究所と東レの共同研究グループは2018念4月17日、耐熱性と高いエネルギー変換効率を持つ超薄型有機太陽電池の開発に成功したと発表した。衣服貼り付けられる“電源”の実現などに貢献する成果だという。

 開発した有機太陽電池は、基板から封止膜までの全てを合わせた膜厚が、3μm(マイクロメートル)と非常に薄い。一方、最大エネルギー変換効率は10%を保持し、さらに100℃の加熱でも素子劣化が無視できるほど小さく、大気環境中で80日保管後の性能劣化も20%以下に抑えられたという。

 こうした特性により、アパレル作製時に布地の接着などに一般的に用いられる「ホットメルト手法」によって、布地への貼り付けにも成功した。布地の材質にはポリエステルを用い、超薄型有機太陽電池と布地の間に加熱によって溶けるポリウレタン製のメルトフィルムを挟み、加熱圧着をすることで太陽電池を布地に貼り付けている。貼り付けた後も、太陽電池の特性の変化や劣化はほとんど観測されなかったという。

開発した有機太陽電池を、ホットメルト手法で布に貼り付けるイメージ。接着後も太陽電池の性能に変化はみられなかった 出典:理化学研究所
布に貼り付けた有機太陽電池の写真 出典:理化学研究所

 こうした特性を実現できた要因は、高エネルギー変換効率と高耐熱性を併せ持つ新しい半導体ポリマーを開発した点にあるという。開発した半導体ポリマー「PBDTTT-OFT」は、これまで有機太陽電池の材料として広く用いられてきた「PBDTTT-EFT(またはPTB7-Th)」と似た骨格だが、直線状の側鎖を持る。これにより高い結晶性を持つ膜を形成できるため、加熱による導電性の低下がPBDTTT-EFTに比べて小さくなる。

 超薄型基板材料と封止膜にも改良を加えている。従来の超薄型基板として用いていたパリレンに比べて、表面平坦(へいたん)性と耐熱性に優れた透明ポリイミドを基板に用いることで、従来の超薄型有機太陽電池よりエネルギー変換効率と耐熱性を高めた。加えて、撥液(はつえき)性に優れたポリマーと、ガスバリア性に優れたポリマーの二層からなる二重の封止膜構造を採用し、大気中での安定性も向上させた。

 なお、この有機太陽電池を5cm(センチメートル)角の超薄型基板に110個形成した大面積モジュールに、1cm2(平方センチメートル)当たり出力100mW(ミリワット)の擬似太陽光を照射したところ、最大電力36mWを達成した。

 研究グループは今回の成果について、衣服貼り付け型の太陽電池を容易に実現できるだけでなく、加熱を伴う過程にも耐え得るフレキシブルな電源としても利用でき、車内などの高温・多湿環境下でも安定して駆動する軽量な電源の実現に貢献できるとしている。

 なお、この研究成果の内容は、米国アカデミー紀要「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に2018年4月16日付け(現地時間)に掲載された。

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