日射予測の“大外し”を検出する指標、太陽光発電の安定運用に貢献太陽光

産総研が日射量予測が大幅に外れる事態を検出する「大外し検出指標」を考案。予測が極端に大きく外れる事態を事前に予測できるようにし、太陽光発電の発電量予測や電力の需給管理に貢献できるという。

» 2018年07月19日 09時00分 公開
[長町基スマートジャパン]

 産業技術総合研究所(産総研)の太陽光発電研究センターは2018年7月、筑波大学、気象庁と共同で、日射量予測が大幅に外れる事態を検出する「大外し検出指標」を考案したと発表した。

 日射量予測は、太陽光発電の発電電力量を予測して電力の需給運用するために必要であり、予測が大幅に外れると電力の余剰や不足につながる。今回考案した検出指標は、世界の4つの気象予報機関が提供する地球全体を予測する全球アンサンブル予測情報を併用して評価した指標で、例えば年数回から十数回しか発生しないような、予測が極端に大きく外れる事態を事前に予測するもの。この指標は、今後さらに加速していく太陽光発電システムの大量導入時代の電力の安定供給や、効率的な運用への貢献が期待される。

 太陽光発電の発電電力量は天候に左右される。そこで、日射量予測情報などを利用して発電電力量を予測し、予測された発電電力量や予想される需要に合わせて、水力や火力発電機などの起動停止を計画し、太陽光発電の変動による過不足を調整・穴埋めする。しかし、日射量予測情報が大きく外れた場合、この調整用電源に余剰または不足が発生し、需給のバランスがくずれて、停電が起こる可能性がある。現在、電力の需給運用のために決定論的予測(単一の予測情報)が利用されつつあるが、予測が大きく外れる可能性を考慮して、調整用の電源容量に余裕を持たせて運用されているため、より効率的な運用は燃料費削減につながる。そのため、日射量予測の高精度化や大きく外れる事態への対策が喫緊の課題となっている。

 産総研では、気象庁の日射量予測情報の太陽光発電分野への応用、気象予測モデルや機械学習を用いた太陽光発電の出力推定・予測手法の研究開発を行ってきた。電力需給運用では、その制御を困難にする日射量予測が大きく外れる事態をいかに減らすかが課題だ。また、日本国内の各種日射量予測は、気象庁の気象予測が基となっていることが多く、気象庁の予測に大きな予測誤差があると、どの手法を用いても同じように予測が大きく外れる。そこで、気象庁の日射量予測が大きく外れる事態を予測できる指標の開発に取り組んできた。

 単一の予報機関では予測に偏りが生じるため、今回の指標は日本・欧州・米国・英国の4つの予報機関の日射量予測情報について、最大51個の全球アンサンブル予測(地球全体を同じ時刻に少しずつ異なる条件で予測を複数実施)の標準偏差(アンサンブルスプレッド)を求め、重み付き平均したものを、予測が大きく外れる事態を検出する大外し検出指標とした。この指標は、個々の予報機関のアンサンブル予測が、予測の信頼性情報を含むことを利用したものである。1〜6日先のアンサンブル予測を利用し、最大6日前から翌日の日射量予測が大きく外れる事態を事前に検出できるかどうか評価した。

 日本国内では、気象庁メソ数値予報モデルの日射量予測値(MSM-GPV)が水力や火力発電機などの起動停止計画の作成に利用される。過去3年間の東京電力管内のMSM-GPVを対象に、今回考案した検出指標の評価を行った。2015年10月のMSM-GPV(毎日3時間ごとに提供される5km四方の平均的な気象予測情報)の日平均予測誤差と、大外し検出指標は統計的に有意な相関係数(0.68)を示した。同様に、各月で相関係数を評価したところ、大外し検出指標は、特に冬季に予測誤差と高い相関係数を示した。

日別の予測誤差(a)と今回考案した大外し検出指標(b) 出典:産総研

 今回考案した大外し検出指標を、ROCカーブ(的中率と誤検出率でプロットした曲線)とROCスコアを用いて評価した。検出する対象は、MSM-GPVの1日先の予測で、3年間(2014年〜2016年)の予測誤差の上位10、5、1%(それぞれ誤差が大きい方から109、54、10日)の日を対象とした。1日先予測の上位5%の予測誤差の検出結果のうち、誤検出率を0.71(71%の確率で誤検出することを許した場合)の場合、上位5%の大外し検出指標の的中率は、12カ月では90%であり、冬季5カ月間では96%であった。

 この検出指標を、1〜6日先予測について評価したところ、個々の予報機関のアンサンブル予測情報だけから大外しを検出した場合よりも、今回考案した指標のように複数の予報機関を利用した場合の方が、より早い時期(最大6日前)でも予想が大きく外れる事態を精度良く検出できることが分かった。

 今後は、大外し検出指標を用いた電力需給運用のシミュレーションを行う。これにより、大外しを事前に予測できた場合に、どの程度需給バランスが改善でき、また、予測の信頼性が高い場合の調整用電源の節約などによる経済的な運用が可能となるかなどの評価を行い、今回考案した指標の実用化を目指す。

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