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「退職代行」をAIがやる時代?――“ワンクリック辞表”の舞台裏【AI虚報】

» 2025年04月21日 18時30分 公開
[吉川大貴ITmedia]

 退職代行といえば、LINE1本で手続きが完了する「モームリ」が草分けとして知られる。しかし2025年春、その常識を揺さぶる新顔が現れた。生成AIが退職の連絡そのものを肩代わりする――そんな触れ込みで登場したサービス 「Yameru AI」 だ。

 利用者は就業規則をアップロードし、スマホの「Exit」ボタンを押すだけ。AIが退職届を起案して上司に送り、チーム全体にも自動で告知し、貸与PC返却の案内まで段取りする。かつて“言いだしにくさ”を解消する手段だった代行は、ついに「辞めます」のコミュニケーション自体を自動化する領域へ踏み込んだ。

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Yameru AI を使った社員と、凍りつく現場

 金曜午前9時。都内SaaSベンチャー「Usoda Cloud」に勤める入社2年目の木之下さん(仮名)は Yameru AIのダッシュボードを開き、退職理由「キャリアチェンジ」を選択して「Exit」をタップした。わずか数分後、Slackの上司宛DMにAI生成の長文メッセージが届く。

 「日頃のご指導に“宇宙一”感謝しておりますが、本日をもって退職いたします。さようなら、次の空へ――」

 末尾には5・7・5の川柳が添えられていた。同時刻、チーム全体向けチャンネルにもYameru AI bot が退職を宣言する投稿を自動で投下。Googleカレンダーは木之下さん主催の会議を一括キャンセルし、招待メールの備考欄に「木之下は退職済み。詳細はYameru AI botへ」と書き添えた。

 上司は電話をかけたが留守番電話、Slack Callを試みてもbotが「本人は余韻を大切にしているため電話には出ません」と自動応答。人事部のチャットには電子署名済み退職届がアップロードされたのみで、木之下さんの手書きは一切ない。6時間後、退職は正式に確定し、本人のクラウドストレージには離職票とリスキリング講座のクーポンが届いた。

Yameru AI 代表に聞く

 Yameru AIの鈴木代表(仮名)は、狙いをこう語る。

 「退職でいちばん重いのは“気まずい一言”です。そこを生成AIが肩代わりすれば、迷いを抱える人の背中をそっと押せる。AI には「感謝―謝罪―展望」のテンプレを学習させ、送り先の性格に応じて言葉遣いを変えています」

 競合との違いを尋ねると、鈴木代表は「他社が“低価格×労組交渉”という王道なら、当社は“タップ一発で終わる快感”を売るプレミアムUX路線です」と胸を張る。秋には、退職ボタンを押した瞬間にスキル診断と副業案件を提示する「After-Quit and Job」をリリース予定だとも明かした。

置き土産は混乱

 Usoda Cloudの人事リーダー日向さん(仮名)は「Slackでbotが全てを仕切り、本人と一言も交わせないまま手続きが終わった。フィッシングを疑うほど唐突で、心理的ダメージが大きい」と打ち明ける。上司も「川柳で終わりは寂しい。引き継ぎの相談をしたくても扉が閉じられてしまった」と肩を落とした。

 大手調査企業によれば、大企業の2割が退職代行経由の離職を経験している。モームリが広げた市場にYameru AIが投じたのは、「退職をUX競争にする」という価値観だ。

 言い出しにくさをゼロにする“Yameru AI型”が広まれば、マネジャーと人事は“別れ方の設計”を根本から見直す必要に迫られるかもしれない。退職の未来が、クリックの軽さとAIの冷静さで塗り替えられるのか――議論はこれからだ。


 社名などの固有名詞でお気づきかもしれないが、上記の文章はITmedia NEWS/AI+で編集記者を務める記者が、ChatGPTに書かせた「ITmediaの記事風短編小説」、つまりフィクションだ。詳細な経緯は別記事に譲るが、ChatGPTの最新モデル「o3」に存在しない記事のタイトルを考えさせてみたところ、面白いものが出てきたのでそのまま記事を書いてもらった。

 AIの初稿は、小見出しが多すぎたり、箇条書きで書いたりしているところが多すぎたので「地の文を中心に書いて」と指示。さらに「部分的に本物の情報を交えて“それらしさ”を高めて」「この部分は削って」などとお願いし、出てきたもののトンマナを調整したり、一部固有名詞を実在しないものに変更したりして、10分程度で仕上げた。サムネイルも注意書きをのぞきChatGPT製だ。

 先に挙げた記事でも説明したが、ChatGPTは4月11日に、ユーザーとの過去の会話の内容に基づいて回答をカスタマイズする新しいメモリ機能を搭載している。そして記者はChatGPTに記事タイトルについて相談をしたり、そもそものアイデア出しを手伝ってもらったりもしている。これにより、記者の好みを“学んだ”o3が、記者に刺さるような“架空記事”を出してきたようだ。

 またAIの思考過程を見るに、執筆の際には、退職代行サービス各社の発表や記事なども参考にしていた様子。o3は画像生成やWebブラウジングなど、ChatGPT内の全ツールを組み合わせて、AIエージェントのように作業を自律的に判断できる点が特徴なので、その強みが発揮されたのだろう。

 ドラマや小説でドキュメンタリー風のフィクション“モキュメンタリー”が流行する昨今。AIに小説を書かせる取り組みはすでにいくつも登場しているが、o3とメモリ機能の組み合わせがさらにその動きを加速させるかもしれない。

 一方、“それらしい”テキストが今まで以上に楽に、すぐに書けてしまうのならば、フェイクに使われる可能性も高い。情報の受け手も、これまで以上に警戒する必要があるだろう。

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