1つ目の要因は、生成AIを業界構造変革のチャンスと捉えるかどうかにあるという。調査では、生成AIを「自社ビジネスの効率化・高度化に資するチャンス」と捉える企業より、「業界構造を根本から変革するチャンス」として見る企業の方が、国を問わず成果を実感していた。
期待を上回る効果を得た日本企業に限ると、55%が業界構造変革を志向しており、自社ビジネスの効率化・高度化を志向する企業は22%にとどまった。一方期待未満の企業では、ビジネスの効率化・高度化を志向する企業が46%に達し、業界構造変革を志向する企業は15%にとどまった。
程度の差はあるが他国でも同じ傾向で、例えば期待を上回る効果を得た米国企業は48%が業界構造変革を志向し、23%がビジネスの効率化・高度化を志向していた。逆に期待未満の企業では、業界構造変革を志向するのは5%のみ。一方でビジネスの効率化・高度化を志向する企業は53%と半数以上だった。三善氏は「高い視座を持って生成AI活用を推進することで、期待を大きく上回る効果が出たと考えられる」と分析する。
活用領域でも差が見られた。社外向けサービスへの活用割合は、米国39%、中国39%、英国35%に対し、日本は22%でドイツと並んで最下位。社内業務の効率化にとどまり、新たな顧客価値創造まで踏み込めていない企業が多かった。
2つ目の要因は、経営層によるコミットメントの差だ。「社長直轄」で生成AI導入を推進している企業の割合は、他国の34〜43%に対し、日本は17%と大きな開きがある。期待を上回る効果を得た日本企業では61%が「社長直轄」で推進していたが、期待未満の企業では8%にすぎない。
CAIO(最高AI責任者)の配置状況でも、他国は21〜38%に対し、日本は14%と後れを取っている。逆に、期待を上回る効果を得た日本企業では60%がCAIOを配置済みだった。
「IT部門主導では、どうしても既存業務の延長線上での改善にとどまってしまう。経営課題として位置付け、トップが直接関与することで初めて抜本的な変革が可能になる」(三善氏)
3つ目の要因は、生成AIを業務プロセスに本格的に組み込めていない点にある。生成AIを「業務プロセスの一部として正式に組み込んでいる」企業の割合は、他国が33〜61%なのに対し、日本は24%にとどまる。期待を上回る効果を得た日本企業では72%が正式組み込み済みだったが、期待未満の企業では14%にすぎない。
AIエージェントの導入状況でも大きな差が見られる。期待を上回る日本企業の77%が「導入済み・導入を進めている」と回答したのに対し、期待未満の企業では26%だった。
業務置き換えの見込みでも、期待を上回る企業の70%が「完全・大部分が置き換わる」と答えたが、期待未満企業では16%にとどまった。
「便利ツールとして位置付けるか、人を置き換えるかで効果が異なる」(三善氏)
4つ目、5つ目の要因として、活用の土台となる情報収集力・ガバナンス整備と従業員への還元施策がある。最新技術に「十分にキャッチアップできている」企業の割合は、他国が55〜71%であるのに対し、日本は20%と大きく劣る。期待を上回る効果を得た日本企業では80%が十分にキャッチアップできているのに対し、期待未満の企業では11%にとどまる。
ガバナンス体制についても、他国の80%以上が中央組織を整備しているのに対し、日本は64%と低い。
見落とされがちだが重要なのが従業員への還元施策だ。AI活用で生産性が向上した分を、時短勤務などとして還元する。期待を上回る効果を得た日本企業では69%が「従業員への利益還元」を実施しているが、期待未満の企業では28%にとどまっていた。
なぜ日本には、これほどまでに生成AI活用で効果を出せない企業が多いのか。三善氏は、日本企業が抱えがちな(1)合意形成重視による迅速な意思決定の困難さ、(2)失敗への過度な懸念による小規模改善への偏重、(3)低い目標設定により生成AIを便利ツールとして捉えてしまうこと──が原因と指摘する。それぞれAIの不確実性と相性が悪く、有効活用の妨げになるという。
「AIは100%の精度が出ない、不確実性がある。トータルで見たとき10%リスクがある場合に、10%のリスクのほうを注視しがち。AIの場合、不確実性を許容できるかどうかが分水嶺だ」(三善氏)
今回の5カ国調査が浮き彫りにしたのは、日本企業の生成AI活用における認識の甘さだ。推進度は平均的でありながら効果創出で最下位に沈んだ現実は、取り組み方の根本的な見直しが急務であることを示している。
一方で希望もある。期待を上回る効果を得た日本企業の取り組み内容は、米国の成功企業と遜色ない水準にある。つまり「やり方は分かっているが、実行できる企業が少ない」のが実情といえるだろう。
「期待を上回る効果を創出する企業と、期待未満の効果しか出せない企業の分岐点は、AIを単なるツールとして捉えるのではなく、AIを事業の中核に据えて本質的な変革に取り組んでいるかどうかにある」と三善氏。AIの進化が加速し、得られる効果の格差も拡大する中、いかに迅速に構造改革に着手できるかが、今後の成功を握るカギになるかもしれない。
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