では、東京都の行政において、どのようなAI活用法が考えられるのか。日本マイクロソフトの大山氏と、LayerXの松本氏、両者がそろって口にしたのは、自律的にタスクをこなすAIエージェントの導入だ。
松本氏は、1つの行政サービスでも「上がってきた申請を法律と照らし合わせる」「Excelに転記する」「印刷する」「保管する」など、細かいさまざまな業務が含まれていると指摘。それぞれの業務に対応できるAIエージェントを開発し、数千、数万規模のAIエージェントを組み合わせることで、業務時間の削減につながるとした。
一方で大山氏は、より具体的に「東京都の公園にムクドリが集まってきて、都民から苦情の電話が入った」といったケースを仮定し、問題に関わる対象を管轄する複数部門を横断しながらの対応を想定。こうした際、部門間の調整などでAIエージェントが活用できる可能性を示した。
パネルディスカッションでは、都のAI活用推進に関し、大山氏から「先日、GovTech東京の皆さんとミーティングさせていただいた際に、やっぱりお役所は縦割り文化だと感じた。実際、どう変えるのか?」との指摘も飛び出した。
これに対し、東京都の辻氏は「ストレートに言うと、ド縦割りが現状だと思う」と明かした。一方で、都庁については、元ヤフーの会長でもある宮坂学氏が、東京都副知事に就任した2019年ごろから変化が見られると分析。「穴が少し空き始めている状況」として、「これからどうさらに小さな穴を広げていくか」と表現した。
「大企業でも同じだと思うが、組織文化を変えることは本当に難しい」「職員個々人にの芽は出始めている。それを組織的にどうサポートできるかを考えると、良い意味でのイノベーションにつながるのではないかと感じている」(辻氏)
他にも、行政でのAI活用に関して、参加者から「業務の正確性の要求水準が高い中央省庁などでは、生成AIの回答精度を高めたいとの要望が強い」として、AIの回答精度に関する課題の解決策を尋ねる質問が出た。
この質問に対し、松本氏は「検証可能性を作る」ことが重要と指摘。AIの回答について「どこからデータを持ってきて、どういう答えになったのか検証しやすい仕組みを作ることがコツ」とした。
また大山氏は「正しいデータを正しく処理する。すると、正しい答えが返ってくる」との考えを示した。「扱いづらいデータも世の中にはある」として、そうしたデータをもとにしても正しい出力は期待できないと指摘。そのうえで「最終的には人間が結果を見て、人間の責任のもと、処理していくことも同時に重要」と答えた。
他方、GovTech東京の井原氏は「100回同じことを聞いて、100回同じ答えが必要な場合は、生成AIでやるべきではない」と異なる角度から回答した。生成AIの場合は「推論になるので、100%同じことはないだろう」と分析。「返す答えが決まっているのであれば、ロジックを組む。間違いないので、プログラミングをしましょうという話」と説明し、「技術の本質を理解して、然るべきところに適用する」といった方針が大切だと語った。
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