ここまでの話はフィクションであり、実際の出来事ではありません。しかし、似たような被害が存在しても違和感はありません。実際に2024年5月、動画編集スクールの受講者が、家族を殺害した事件が起こりました。この事件の詳しい動機は語られていませんが、一部報道では「動画編集で稼げないことへの経済的な行き詰まり」「家族間の問題」などが挙げられています。
そこでだまされないための対策として、「神の視点」が挙げられます。客観的かつ俯瞰した目線で見ることで、違和感を探すことです。この記事とあまり関係ないですが、現在テレビで再放送されているアニメ「魔法少女まどか☆マギカ」における狩野英孝さんの副音声をイメージすると分かりやすいでしょう(ちなみに狩野さんは神主の資格を保有しています)。
この副音声では、物語を第三者の立場から違和感や理不尽な展開に対して、狩野さんが芸人らしい的確なツッコミを入れています。それでは、ここまでの内容における違和感を神の視点で挙げてみます。
「生成AIでリストラが加速」「副業で〇〇万円稼げる」などの主張や数字は、誇張されている可能性があります。さらに根拠として都合の良い情報だけを意図的に選定したり、著名人の発言を利用したりする手法があります。
経済系動画メディアの出演や有名人とのコラボ動画は、広告費を出せば制作できます。本人が自称する有名企業の出身、高い年収や年商、起業や会社売却の経験などの華やかな経歴についても、確認しましょう。実際には大げさな表現だったり、過去に問題を起こしている場合もあります。
典型的な悪徳商法です。契約書をその場で用意せずに、会社のWebサイトに掲載しておき「クーリングオフ(一定期間内で無条件に返金)適用外」「月額支払いで契約しても1年間は解約不可」「いかなる理由でも返金しない」などを記載しておくことで、入会後にトラブルが起きても契約を盾に応じません。長時間のセミナーで判断力を低下させる手法にも注意しましょう。
つまり「向こうからやって来た良い話は全て無視」です。
詐欺の立証や悪徳商法の摘発は難しく、表に出るのは一部です。過去の逮捕事例としては売上不正が発覚したオルツや、未公開株の詐欺で110億円を集めたメタモなどです。これらの事例でも、怪しい評判から数年経過した後に逮捕となり、大規模かつ明確な違法行為を繰り返さない限りは、逮捕や行政指導には至りません。
個人的に悪徳商法が疑われるスクールについて、行政機関や業界団体や提携先企業に問い合わせたこともありましたが、何の動きもありませんでした。たとえ高額で低品質な悪徳スクールでも「契約に沿ったサービスを提供しており違法ではない」と主張できます。
SNSや動画投稿サイトで批判しても、弁護士による開示請求などで言論封殺も可能です。集団訴訟や内部告発によってメディアで報道されても、社名を変えるなどの逃げ道があります。悪徳商法が繰り返されるのは、こうした事情があります。
この記事とはあまり関係ありませんが、アニメ「魔法少女まどか☆マギカ」は同じ期間を繰り返す「ループもの」と呼ばれるジャンルです。同じく悪徳商法の題材や手口もループします。
過去にもプログラミングスクールや仮想通貨などで悪徳商法が問題になりました。これらの元運営者が、現在は生成AIスクールを運営している可能性もあり、捕まってない詐欺師は捕まるまで詐欺を繰り返します(オルツの創業者は、以前の連載で紹介した通り過去の起業でも問題を起こしています)。ある意味まどか☆マギカと同じジャンルです。
もしも、まどか☆マギカのように願いがかなうなら、悪徳商法や情報商材屋を消滅させることができるでしょう。しかし現実には奇跡も、魔法も、ありません。同様に生成AIも、奇跡でも、魔法でもありません。人生で一発逆転できるもうけ話はないという、現実を認識しながら生きましょう。
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