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メモリ高騰、“真犯人はサム・アルトマンCEO”説は真実か? 「40%を買い占め」の出どころは

» 2025年12月15日 12時00分 公開
[鈴木聖子ITmedia]

 メモリ価格の急騰を引き起こした「真犯人」は、OpenAIのサム・アルトマンCEOだった?――そんな説がネット上で飛び交っている。「OpenAIが世界のDRAMの40%を買い占める契約を結んだ」とする情報がその根拠。しかしそうした説に対し、業界事情に詳しい専門家は懐疑的な見方を示した。

 うわさの出どころとみられるのは、PC関連の情報をWebやポッドキャストで発信しているメディア「Moore's Law Is Dead」の「Sam Altman's Dirty DRAM Deal(サム・アルトマンの汚いDRAM取引)」という記事だった。

Moore's Law Is Deadの記事

 この筆者は11月24日付の記事の中で、32GBのDDR5メモリがたった1カ月足らずで156%値上がりして、330ドルになっていたという自身の体験を紹介。急騰の原因として、「OpenAIが行った前代未聞の2つのRAM取引に、誰もが不意を突かれた」「その取引の秘密性と規模の大きさで、全面的なパニック買いが起きた」「市場の安定した在庫はほぼゼロだった」と分析した。

 この「取引」とは、OpenAIが次世代AI向けインフラ整備計画「Stargate」プロジェクトの一環として、韓国Samsungおよび韓国SK Hynixと結んだ戦略的提携を指す。10月1日の発表については報道各社が伝えている。

 プレスリリースの中でOpenAIは「今回の提携を通じ、SamsungとSK Hynixは先端メモリチップの生産を拡大する計画で、月間90万枚のDRAMウェハを目標とする」と発表。Samsungも同日、「OpenAIのメモリ需要は月間最大90万枚のDRAMウェハに達すると予測されており、Samsungは性能が高くエネルギー効率の高いDRAMの幅広いラインアップでこの需要への対応に向けて貢献する」と発表した。

 この「90万枚のDRAMウェハ」という数字についてMoore's Law Is Deadは、「OpenAIが世界のDRAMの40%を買い占める同時契約を締結した」と解釈した。

「40%を買い占め」説はどこから?

 では、40%という数字はどこから来ているのか。

 米メディアのTom's HardwareはReutersやBloombergの報道を引用して、「両社がStargateに提供するのはDRAMチップやHBMではなく、ダイシングされていないウェハだ」と強調した。月間90万枚という数字については「DRAM総生産量の40%前後に相当する驚異的な量」と位置付けている。

 Tom's Hardwareによると、アナリストが予測する2025年のDRAM生産能力は、ウェハ換算で月間約225万枚に達する見通し。計算上、Stargate計画の90万枚はその40%に相当する。

 Moore's Law Is Deadの記事でも、OpenAIが契約したのが完成品のメモリではなく「未加工のウェハ」だったことを強調。OpenAIはMetaやGoogleといった競合他社にリードを奪われることを恐れているとした上で、「この取引の究極の狙いは、単にOpenAI自身の供給を確保するだけでなく、市場を締め付けることだったように見える」との説を展開した。

 ただ、業界の事情に詳しい解説者は今回の契約自体に懐疑的な見方を示す。SanDiskやMicronの幹部を務めたデイブ・エッグルストン氏は、Moore's Law Is Deadの別の番組の中で、過去にこのような長期契約が持ちこたえた例はほぼ皆無で、契約は破棄されたり解除されたりしていると指摘した。

 「サム・アルトマンは注目を集めることやプレスリリースを出すことが非常にうまい。彼はただ、自分の力を誇示して優勢を見せつけようとしているにすぎない」。エッグルストン氏はそう解説している。

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