原則9は「Ellipsis for Clarity」。日本語は主語や目的語の省略が多い言語だが、英語に翻訳するための日本語ではこれらをできるだけ明示すべきだ。省略が多いと、AIが誤った主語や目的語を補ってしまい、著者は後からいちいち修正しなければならなくなる。明示することでAIが正確に文を解析する確率が高まる。
AI翻訳で文体が改善されても、論文の正確さは研究者自身が徹底的にチェックしなければならない。英語を母語としない著者にとって最も難しいのは、単語のニュアンスと冠詞・名詞(可算・不可算)の使い分けだ。
これらは日本語にない概念であるため、理屈と具体例の両面から習得する必要がある。また、報告動詞のclaims/reports/suggestsの違いや、cheap/inexpensiveのような微妙な差異を理解するには、英英辞典を日常的に活用する習慣が欠かせない。
比喩やイディオムなどの非字義的表現も注意が必要だ。直訳では意味が通じないことが多いため、使用は控えるべきである。一方、スペリングや時制の一致といった誤りはAIによってほぼ解消される。
ただし前置詞については依然として注意を要する。AIは頻出構文に引きずられ、著者の意図とは異なる前置詞を出力することがあるからだ。前置詞を正しく理解するには、一つの前置詞に一つの本質的意味があるという「本質主義」を捨て、複数の代表的な用例を通じて把握することが有効である。
以上の9原則は、AIの限界を補うために人間がなすべきことを体系化したものだ。AIは確率計算で最もありそうな語を生成するが、論文の内容そのものを研究者のようには理解していない。
だからこそ著者は、ストーリーの構想、英語的発想に即した日本語執筆、最終的な校閲において責任を果たさなければならない。これらの原則を内面化することは、AI時代においてむしろ重要性を増している。世界中の研究者がAIを使って英語執筆力を高める中、差がつくのは人間にしかできない部分だからだ。
Source and Image Credits: 柳瀬 陽介, AIを活用して英語論文を作成する日本語話者にとっての課題とその対策, 情報の科学と技術, 2023, 73 巻, 6 号, p. 219-224, 公開日 2023/06/01, Online ISSN 2189-8278, Print ISSN 0913-3801, https://doi.org/10.18919/jkg.73.6_219, https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/73/6/73_219/_article/-char/ja,
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