バイクは、経済的に車を購入するのが難しい若者にとっての「ステップアップツール」だった。しかし近年、バイク市場は壊滅的な様相だ。
4年半の海外生活の後、数年前に帰国して驚いたのは、日本でのバイクの駐輪規制がすごく厳しくなったことだった。
特に民間委託後、車と同じように、バイクがビシビシ、テキパキと駐輪違反を取り締まられているのを見て驚いた。もちろん不法なバイクの駐輪違反を擁護するわけでは全くないが、日本のバイクの駐輪規制は異常に厳しい。
もともとバイクは、自動車を手に入れることが経済的に難しい若者たちの、最初の「大事な足」のひとつだった。街の中の気軽な足として、車の渋滞を横目にスイスイと早く目的地に到着できた。つまり、若者たちの「経済活動における最初のステップ」だったわけだ。
わたしの父親も、終戦後京都で仕事を始めた時に、最初は自転車から始めて、その後バイク、3輪バイク、車とステップアップしていった。わたし自身も大学時代に、アルバイトに出かけるのにもっとも安いバイクを購入した。リトルホンダという文字通りの原付自転車だ。素晴らしいマシンだった。
このバイクがあったおかげで、わたしはオーストラリアに向かう船に乗せてもらうために、大阪市内の船会社をまわることもできた。車がなければ生活できないオーストラリアでも、やはりバイクは活躍してくれた。こうしたバイクでのステップがなくなってしまえば、今度は車を購入することも非常に難しくなるだろう。
若者の仕事のチャンスは、大企業に就職することだけではない。自分の知恵、自分の手足で稼いで、少しずつビジネスを拡大していくという手もある。
若者が新しいビジネスを自分で開拓しようとする場合、肝心な要因は「人、モノ(あるいはソフト)、資金、交通手段、通信手段、知恵」だと考えている。交通手段を例にしてみよう。仮に田町の駅から歩いて10分の会社から、西新宿の副都心に行く場合、地下鉄だと、1回の乗り換えを含んだ所要時間は約1時間。バイクなら約30分で済む。往復で1時間も得だ。
もともと資金がない若者たちであるが、交通手段を取り上げると、若者たちは活躍できない。交通手段で若者たちの勢いを殺いでしまうのは悲しい。街がさっぱりしても、若者たちのビジネスチャンスをつぶせば、社会の活力を失うだろう。
年度 (1月〜12月) |
台数 |
---|---|
1995 | 121万2852 |
1996 | 121万9916 |
1997 | 118万8238 |
1998 | 106万2980 |
1999 | 83万6959 |
2000 | 77万9877 |
2001 | 75万686 |
2002 | 77万1082 |
2003 | 76万121 |
2004 | 70万21 |
2005 | 70万6513 |
2006 | 70万366 |
2007 | 68万4944 |
2008 | 52万2315 |
2009 | 38万777 |
ところが、冒頭で書いたように駐輪規制が厳しくなったために、バイクの駐輪は激減。 JAMA(日本自動車工業会)のデータベースで調べてみたところ、1995年に120万台以上の販売・出荷台数だったのに、2009年は40万台を割った。実に3分の1以下になったわけだ。
日本自動車工業会によれば、駐輪規制が日本ほど厳しい国は思いつかないという。駐輪する場所がないのでうかつに出かけられず、当然ながら街を走るバイクも減っている。バイク専用の駐輪場も都内でも増えてきているが、まだまだ絶対的に不足している状況だ。
ただ警視庁も、駐輪規制の厳しすぎることを気にしているのか、表参道に無料の駐輪スペースを試験的にオープンした。これが成功すれば、もっと増やす予定かもしれない。
排ガス規制によりバイク本体の価格が上昇する一方、若年層の収入が減ったことも大きい。通勤通学用のバイクを買いたいと思っていた若者たちが自転車を購入しているようだ。わたしも、愛車「トレンクル」と電車を組み合わせた「サイクルアンドライド」で移動することが多いから、この便利さはよく分かる。こうした自転車の台頭も、バイク市場の衰退の一因と言えそうだ。
他方、ハーレーダビッドソンなどの高級大型バイクは、豊かな団塊の世代の購入を基盤に底堅い。このあたりの世代間ギャップはなんとも悲しいものがある。
わたしは、現在、この原稿を台湾の台北にて書いている。街には無数のバイクの駐輪場が作られており、車の駐車スペースよりはるかに多い。街の交差点を途方もない数のバイクが横切り、ある種の感動さえ覚える。そこには働く人たちの意欲を感じるからだ。ベトナムのハノイも、自転車からバイクにシフトした。こうした国々のライダーたちが日本の駐輪規制の現状を見たら、何と言うだろう。
誤解のないよう繰り返し書いておくが、わたしは安全上問題があったり、公共の迷惑になるようなバイクの駐輪違反を擁護するつもりは毛頭ない。また、バイク事故の危険性や恐ろしさも分かっているつもりだ。運転マナーは当然順守すべきだし、酒気帯び運転などは絶対に許されない。
しかし、それらを精いっぱい考慮した上で、やはり日本の駐輪規制は異常に厳し過ぎると言わざるを得ない。さらに現在はバイクから、自転車へと規制が広がっていっている。その後は乳母車だろうか、車椅子規制だろうか?
このままではちょっと出かけてコンビニで買い物すらできなくなってしまうのではないか。車もバイクも自転車も利用を規制し、それらを使ったショッピングまでしにくくなるとすれば、内需はどんどんしぼんでいくだろう。
バイクの利用を、車の利用を、そして若者のチャンスを、殺してはいけない。
夢を乗せて走る――。
1946年京都生まれ。大阪外大英語卒、三井物産入社。ナイジェリア(ヨルバ族名誉酋長に就任)、サウジアラビア、ベトナム駐在を経て、ネパール王国・カトマンドゥ事務所長を務め、2004年8月に三井物産を定年退職。在職中にアイデアマラソン発想法を考案。現在ノート数338冊、発想数26万3000個。現在、アイデアマラソン研究所長、大阪工業大学、筑波大学、電気通信大学、三重大学にて非常勤講師を務める。企業人材研修、全国小学校にネット利用のアイデアマラソンを提案中。著書に「金のアイデアを生む方法」(成美堂文庫)、「マラソンシステム」(日経BP社)、「稼ぐ人になるアイデアマラソン仕事術」(日科技連出版社)など。アイデアマラソンは、英語、タイ語、中国語、ヒンディ語、韓国語にて出版。「感動する科学体験100〜世界の不思議を楽しもう〜」(技術評論社)も監修した。近著は「仕事ができる人のアイデアマラソン企画術」(ソニーマガジンズ)「アイデアマラソン・スターター・キットfor airpen」といったグッズにも結実している。アイデアマラソンの公式サイトはこちら。アイデアマラソン研究所はこちら。
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