情報の構造化、してますか?説明書を書く悩み解決相談室(1/2 ページ)

80年代以降進んだゆとり教育の影響で、「思考力」不足が問われることがあります。これはゆとり教育の問題に限ったことではなく、分かりやすい説明書を書けない要因である「原理原則までさかのぼって考えない」ことにも通ずるのです。

» 2012年02月08日 11時00分 公開
[開米瑞浩,Business Media 誠]

 「説明書を書く悩み解決相談室」第14回です!

 教育問題に関する興味深い本を読んだので、その一部を紹介します。『ごまかし勉強(上)学力低下を助長するシステム』という本で、以下は本文中81〜84ページの要約です。

  1. 80年代後半以降、学習指導要領を改訂する度に学習内容は減ってきた
  2. その狙いは「記憶偏重の教育」から「思考力重視の教育」を目指すということだった
  3. しかし、学習対象の量を減らせば記憶偏重でなくなるという考え方はあまりにも安易である
  4. 実際には、量を減らすと暗記で済んでしまうため「思考力」がそもそも育たなくなる
  5. 暗記しきれないほどの量になると、「考えて」基本原則を理解しなければならなくなるため、思考力を重視するなら、量を減らしてはいけない

 といったことです。実例として、中学生が学ぶ「化学反応の式」の数が1967年には約50種類だったのが1996年にはたった12種類と、8割減になっていることなどが挙げられています。いわゆる「ゆとり教育」問題です。

 私もこの著者の教育学者である藤澤伸介氏の意見にまったく同感です。どんな分野でも「原理原則」は「現実の応用例」に比べるとはるかに数が少ないもので、「実例」を1から10まで丸暗記しようとすると数が多すぎてとても無理な話です。しかし、原理にさかのぼって考えて応用する習慣を持っておくと、覚えておかなければいけないことが少なくて済むうえに、実例も、むやみに暗記するよりも記憶に残りやすいというメリットがあります。

 にもかかわらず、80年代以降進んだゆとり教育の流れの中で学習内容が減り続けたことは、思考力がなくても点数が取れる状況を生み、学力低下を助長した、というわけです。これはゆとり教育批判としてごくまっとうな論点ですし、このようなゆとりからは早急に脱却しなければならないでしょう。

 それを踏まえてこの連載のテーマに話を戻すと、実はこの「原理原則軽視」の傾向は決して80年代以降の子供の教育の問題だけではありません。ゆとり教育世代ではない多くの大人も原理原則までさかのぼって考えるという習慣は持っていませんし、それが分かりやすい説明書を書けない原因の1つなのです。

分かりやすい説明書を書くための5ステップ

 私の本職は文書化能力向上コンサルタントなので、書くことを苦手とする社会人を対象に読解図解力をテーマとする企業研修をしています。そのときに必ず出す「分かりやすい説明書を書くための5ステップ」というチャートがあるので紹介します。

 複雑・難解な文書を、問題の構造がよく分かる文書に書き換えるためには、大体(A)〜(E)まで5種類の作業ステップがあります。

 (A)で、まずは取りあえず知っていることを頭の中から出します。前後の脈絡がつながらなくても構わないので、個条書きで片っ端から書きます。(B)は、その中から理解の手掛かりになりそうなキーワードを見つける作業。

 次に(C)。ここが肝心ですが、構造化するための軸を探します。構造化の軸が見つかると、一気に分かりやすく書けるようになるので、ここを決しておろそかにせず、執念かけて探します。実例としては、本連載第1回の「背景→問題→理想→解決策」、第2回およびその発展型である第3回の「素材→加工→用途」、第6回の「告知→予防→治療→終結」、第11回「反対方向の対比」など、この連載の中でも幾つもありますので、構造化の軸というものを知る参考にしてください。

 それが分かると、(D)では自分が書いた情報をその構造に沿って分類していきます。そうして整理したものを最後に(E)で見やすいように組み立て直します。

 以上、おおまかに5つのステップがありますが、この中で一番大事なのは(C)の構造化です。これが分からないと先に進めません。先に進めないとどうなるかというと、(A)だけやって終わりにしてしまう例が多いんですね。

 「取りあえず自分の知っていることは書いた」「後は……ま、いっか。これで出しちゃえ!!」――というわけです。構造化が必要だという実感がそもそもないと、こうなってしまいます。

 ちなみに、(B)の作業は(C)の前準備なので、(C)をやらない場合は(B)がそもそも必要ないため、(A)だけで止まっている例が多いです。また、一見分かりやすそうに見せたいがために、(A)の次に(B)(C)(D)をすっ飛ばしていきなり(E)をやってしまう例もよくあります。

 (E)は「フォントにメリハリを付ける」や「文のレイアウトを整える」「簡単なイラストを付ける」作業であり、大半は内容とは関係なくやれますので、見た目がきれいな文書を作るのなら(A)の次にいきなり(E)でもなんとかなります。ただし、これは見栄えがいいだけなので、それを読んでも分かりにくいのは変わりません。

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