本の読み方には、同じ本を何度も繰り返し読むという方法もあります。
これは、おおげさに言えば、自分の生きる姿勢や考えを常に正したり、確認するための読書と位置付けられます。あるいは、自分の哲学をつくるために大切な読書だということもできます。
分野を問わず、世界的に成功して名を馳(は)せている人は、必ずと言っていいほど繰り返し読む、自分なりの“バイブル”をもっています。
私も機会があるごとに繰り返し読む本を何冊か持っています。これらは1年に1回、必ず読み返しています。
「繰り返し読むのは時間の無駄ではないか」と思う人もいるかもしれませんが、とんでもありません。同じ本であっても、それを読む自分の年齢が違ったり、そのときどきの心理状態によって、まったく違う内容に感じることがあるのです。そればかりか、それまでは気付かなかった著者の真意に触れたりするなど、いつ読み返しても新しい発見の連続です。
ある会社を経営しているKさんは、1冊の本を繰り返し読む達人です。
Kさんは「面白い」と思った本は、少し時間を置いて何度も繰り返し読むそうです。
手前味噌になりますが、私が以前出版した『「成功曲線」を描こう。』(大和書房)という本をKさんは読んでくれていました。自宅にお邪魔した際、その本にふせんがたくさん貼ってあるのに気がつきました。
なかを開くと、いろいろなところにラインマーカーが引いてあって、本もいくらかくたびれています。何度も繰り返し読んでくれていたのがわかりました。
どうして同じ本を繰り返し読むのか、Kさんに尋ねてみました。
研究開発にたずさわっているときに、製造に関する専門書を繰り返し読むと、多くの気づきがあることを知って以来、「これは!」と思う本は何度も読むようにしているというのです。
Kさんは、実は遊びも趣味も、何をするにしても、すぐにマスターしてしまうという人で、その上達法を聞いてみると、やはり繰り返し本を読むことが秘訣だというのです。
例えば、テニスをはじめようと思ったときに、普通はラケットやウェアを買いそろえたら、早速コートに立ちたくなります。
ところが、Kさんがまず足を運ぶのは、スポーツ用品店ではなく書店です。
書店にはテニスの本がたくさん並んでいて、もちろんすべてを読むことは不可能です。だから、いろいろと見比べてみて、そのなかからよさそうな本を5、6冊買ってきては、その本を何回も読むのです。
重要なのは、自分がテニスをしているイメージができるまで読むこと。コートに立つ時間は多少遅くなるかもしれませんが、その代わり、Kさんがコートに立ったときには、何をどうするかがすべて順番通りに頭の中に入っています。だから、あとはスイスイ上達していくというのです。
最近はチェロに凝っていて、これもめきめき上達しているようです。
同じ本を繰り返し読むことによって得られる喜びは、物事の深さや視点の高さに気づくことなのかもしれません。
多くの本のなかから、一生をかけて読んでみたいという本に出合えたら、本当に幸せなことです。仕事をするうえでも、自分のぶれない哲学となり、判断をするときの指針となってくれます。
どうぞ、そんな読書をしてください。
友人や尊敬する人に、おすすめの本を尋ねてみよう。
昔読んで感銘を受けた本を、もう一度読み返そう。
(次回は「1つのテーマを勉強する」について)
石原明(いしはら・あきら)
日本経営教育研究所代表、僖績経営理舎株式会社代表取締役。ヤマハ発動機(株)を経て、外資系教育会社代理店に入社。「セールス・マネージャー世界大賞」を受賞後、日本経営教育研究所を設立、経営コンサルタントとして独立。現在、中小企業から大企業まで、業種や企業の規模を問わず幅広いコンサルティング活動を行っている
主な著書に『トップ3%の会社だけが知っている儲かるしくみ』(中経出版)、『営業マンは断ることを覚えなさい』(三笠書房)、『社長、「小さい会社」のままじゃダメなんです!』(サンマーク出版)などがある。
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