30代前半、3の倍数でいうと入社9年目から12年目にあたる31歳から34歳くらいになると、リーダーを務めるのが当たり前になってきます。
ただ、同じリーダーでも20代のリーダーと30代のリーダーでは意味合いが変わってきます。たった5歳ほどの差ですが、これが大きな差になることを認識してください。
20代のリーダーは、部下からすると「ちょっとした先輩」感覚で付き合えるリーダーです。ちょっとした先輩というのは有利で、年齢的にも心情的にも部下と近いところにいます。「そうだよな」「そうですね」と感覚的に分かり合える関係です。
その結果、グループが一種の小市民集団のような性格を帯びてくることもあります。小さなグループをつくって、「(オヤジたちはダメだけど)俺たちのアイデアはすごい」「(オヤジたちはダメだけど)俺たちはがんばっている」と内向きにまとまってしまうのです。また、それができてしまうのが20代のリーダーです。
一方、30代のリーダーは、まったく異なります。
下手をすると、干支が1回り違う部下までグループに入っています。20代の人間から見ると、30代は明らかに上の世代です。同世代ではない人間を動かすむずかしさが出てきます。
しかし、同世代ではない人間を動かすのが、真の会社のリーダーです。30代のリーダーになって初めて、会社のリーダーを経験すると言ってもいいかもしれません。ここで才覚を発揮できるかどうかが、勝負になります。
20代のリーダーとは違い、30代のリーダーは仲間意識のようなものでメンバーを動かすことができません。ですから、モチベートしてメンバーを動かす能力が問われることになります。
あるときは論理的にモチベートする必要があるでしょう。別のケースでは目標に賛同させて、心を震わせて動かすこともあるでしょう。構成メンバーの性格などにもよりますが、「この案件をやり遂げれば、俺たちは次のステージに行ける。絶対やってやろうぜ」というような熱い徴(げき)が功を奏することもあります。
ただ、30代になるとどうしても、自分のスペックは落ちてきます。そこで大切なのは、若いメンバーのスペックを活用することです。HDDに入っているデータ量は自分のほうが多いかもしれませんが、CPUとメモリは若いメンバーのほうがいいものを持っているので、外部装置としてどんどん使うようにしましょう。
リーダーとしてやってはいけないのが、仕事を10個に切り分けてそのうちの1個を自分で担当してしまうようなやり方。手を出したくなるのは分かりますが、全体を俯瞰(ふかん)して向かうべき方向に導くのがリーダーの役割です。あくまで全体が見える位置に自分を置くようにします。
そして、方向付けをするときにも、役割の線引きを明確にすることです。ここがあいまいになっていると、お互いに要らないストレスを抱えることになります。
伝えないと相手は分かりませんから、コミュニケーションを積極的にとるようにします。
「プログラムを何本も書く生産能力は君たちのほうが高いけど、パッと見てプログラムのおかしい箇所を見つける力はおそらく俺のほうが上だ。そこはチェックさせてくれ」
「最初のデザインのところは意見を言わせてもらう。だけど中身のことは任せるよ」
私はよく、こんなふうに声をかけていました。私は変なところで口を出さずに済むようになりますし、言われたほうは自分が任せられた範囲が明確になるので、作業に集中できるようになります。
上から選ばれるのではなく、下の人間から選ばれるのが本物のリーダーです。
20代のうちは上から選ばれることが重要ですが、30代になったら下から選ばれる人間になっているかどうかを自分への評価基準に入れてください。
この人の下で働きたい。この人と一緒にやったプロジェクトでは学ぶことが多い。この人みたいになりたい。
30代からは、このように思われる人が次のステップに選ばれる人です。
山元賢治(やまもと・けんじ)
1959年生まれ。神戸大学卒業後、日本IBMに入社。日本オラクル、ケイデンスを経て、EMCジャパン副社長。2002年、日本オラクルへ復帰。2004年にスティーブ・ジョブズに指名され、アップル・ジャパンの代表取締役社長に就任し、現在、(株)コミュニカ代表取締役。(株)Plan・Do・See、(株)エスキュービズム、(株)F.A.N、(株)マジックハット、グローバル・ブレイン(株)の顧問を務める。私塾「山元塾」を開講。
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