上を目指し続けるのなら、ゴールは決めないほうがいい一流の働き方

一流といわれる人は、常に現状に満足することがない。基本を繰り返し、自分が満足するまで追求し続けるクオリティの高い仕事を成功させている。

» 2014年01月27日 10時00分 公開
[川北義則,Business Media 誠]

集中連載『一流の働き方』について

 本連載は、2013年11月26日に発売した川北義則著『一流の働き方』(アスコム刊)から一部抜粋、編集しています。

 なぜあの人の仕事は、いつもうまくいくのか? 一流は困難なときこそ楽天的である。「忙しい」は、二流の口グセ。「努力」は、他人に見せたときに価値を失う。仕事ができる人は、孤独を恐れない――頭角を現す人にはこのような条件を持っている。

 本書は、人気ベストセラー作家が「頭角を現す人」の究極の仕事術を39の条件にまとめ語り尽す一冊。あなたも「あの人のようになりたい」といわれる人間になろう!


 「慣れ」は恐ろしい。

 どんな仕事でも、与えられた仕事をある程度こなせるようになると慢心が必ず生まれる。慣れである。

 仕事を覚えたてのころは「これは大丈夫か、あれは大丈夫か」と1つ1つ点検、検証することを忘れないが、大きなミスでも起こさなければそれも次第になおざりになってくる。要は、基本を軽視しはじめるのである。だが、クオリティの高い仕事を成功させる一流の仕事人は、基本の重要性を知っている。

 「うちで、親父の代から50年以上も働いてもらっている職人は、この人、世界一じゃないかっていうくらいすごいものを作っちゃうんです。でもね、初歩的な技術でも超一流で、その技術に若い職人が舌を巻くんです」

 東京の下町で金属部品の製造工場を経営している社長がいう。大学時代の友人の紹介で知り合い、ある企業広報誌の取材をさせてもらって以来の付き合いだ。彼が絶賛する一流の職人の特性を尋ねてみた。

 「それは基本と反復、そして“欲”です」

 基本と反復は分かるとして、「欲」とは意外な答えだ。

 「その職人は満足することがない。いつもベターじゃなくてベストを、と貪欲なんです。こちらが完成したなと思ってからが長い。自分が満足するまで手放さない」

 なるほどと感心しきりだった。

 私自身、一冊の本をプロデュースするにしても執筆するにしても、仕事はそうだ。とにかく「終わり」が、終わりではないのである。プロデュースの仕事なら、生原稿、初校、再校と、最低でも3回は原稿を読み直すのだが、その都度、改良点が見つかる。

 生原稿の段階で内容そのものはチェックずみだから、それはいい。だが、ちょっとした本文の言い回し、見出しのコピーなどでしっくりこないことがあるのだ。自分自身の著作についても同様だ。

 「大勢に影響はないでしょう」

 第三者はそういうかもしれない。内容が満足するものなら、言い回しや見出しは別ということなのだろうが、それは違う。内容というのは「どう表現するか」と一体のものなのである。著作というものは、書かれたものがすべて。買って読んでくれる読者に、後から「本当はね」とか「実はね」という言い訳は通用しない。

 だから、言い回しや見出しにも細心の注意を払わなければならないのだ。さすがに「てにをは」で悩むことはないが、形容詞や一節、小見出し一本の表現を決めかねて、何度も書き直すのはよくあることだ。

 「もっと読者に訴えられる表記はないか」

 などなど、その問いかけを忘れてしまったら、自分の仕事のクオリティは劣化する一方だと考えている。そのために、何度も何度も基本に立ち返り、この本、この文章、この言葉で何を伝えたいかを問い直す。基本と反復である。「推敲(すいこう)」「ブラッシュアップ」は、一流の仕事人の基本だ。

「ゴール」は決めないほうがいい

 「最適解」という言葉がある。

 物理学や数学の世界ではよく使われる言葉で、一定の条件を満たしている状況で最適の答えを導き出すことだ。それにぴったりのエンジニアが紹介されていた(『朝日新聞』2013年8月5日)。

 日産自動車で、シート・安全装備開発グループの主担として働く平尾章成さんである。平尾さんの仕事は車の椅子の開発。入社以来四半世紀にわたって、それだけを徹底的に研究してきた人である。彼の言葉がふるっている。

 「疲れないシートを作るためには、疲れてみないといけない」

 基本中の基本である。試作段階の椅子に座り、自動車の運転席に座っているのと同じ感覚になるようにハンドルの模型を握り、何時間も座りっ放しで過ごしたり、ときにはテストコースで100キロ以上も走ってデータを収集したりするという。

 こちらは反復である。

 常人ならばある程度の地点に達すると、たとえ満足していなくても、そこで妥協してしまうものである。しかし、平尾さんの場合は、昨日よりも今日、今日よりも明日と日進月歩で、いま以上のクオリティを目指した研究を行っている。平尾さんをそこまで駆り立たせているものというのが、実は「最適解」なのだという。

 「モノ作りの中で、最適解を見つける妙味を経験した」

 そうして開発されたシートは現在、「ビジネスクラスの快適さ」を持つ椅子として、日産の高級ワンボックス・ミニバン「エルグランド」に採用されている。しかし平尾さんの目標は、あくまでも全車種での採用だという。妥協を許さず、自分が作り上げた最高傑作のシートに対する自信から出た発言だというのがよく分かる。

 記事の最後に紹介されていた平尾さんの言葉に、職人魂を見ることができた。「電動化して、車からエンジンがなくなっても、シートは絶対なくならない。ゴールはない」「欲」が人を進化させる──。「ベスト・アンサー」「ファイナル・アンサー」は、一流の仕事人にはいつまでも存在しない。

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