Kindle初の日本語マンガはいかにして誕生したか――電子書籍出版秘話:Amazon Kindle DTP(3/3 ページ)
AmazonのKindleやAppleのiPadなど、電子書籍に関する動きが活発になってきた。日本語のマンガでいち早く電子出版を試みた小沢高広氏に話を聞いた。
誠 Biz.ID Kindleを持ってないまま出してしまうというのはある意味画期的だと思うんですが(笑)、電子書籍のプラットフォームにはそれほど興味がなく、電子書籍をとりあえず出してみたいという考えだったんでしょうか。
小沢氏 そうですね。べつにKindleじゃなくてもよかったです。
誠 Biz.ID いわゆる電子書籍については、携帯電話など、電子書籍のビューアごとに最適化したコマ割りや動きというのはあると思うんですが、そのへんは制作サイドからするといかがですか。
小沢氏 Kindleは動きは弱いですけど、iPadであれば半アニメーションや、完全なアニメーションを入れたりもできますよね。実際何年か前からFlashを使ってそうしたコンテンツを作ってらっしゃる方もいますし。あれはあれでもちろん進化するけど、マンガはここまで培われたプラットフォームがありますので、すぐになくなるとか全部移行するとか、それはないかなと思います。例えば無料でWebでマンガを公開している人が全員カラーになるかというとそういうわけでもない。
ただ、もともとマンガとアニメは非常に近いジャンルなので、クロスオーバーする作品とか、それはそれで出てくると思います。
誠 Biz.ID 動画や音声データとか、iPadであれば載せられそうだねという話があったりとか、マンガとアニメが融合していく可能性は少なくないと思うんですが、制作サイドはけっこう大変じゃないですか。
小沢氏 大変ですね。マンガとアニメで一番違うのは時間軸の使い方なんですよ。アニメを作っている人に聞くと、マンガっていいよね、とおっしゃる。なぜかというと、マンガだったら分からないことが出てくるとみんな前のページに戻って見てくれる。アニメの場合は巻き戻しては見てくれない。だからアニメを作る時は何回も同じシーンを繰り返し入れてやんなきゃいけなくて、そこの説明感というのが作っている側からするとすごいめんどくさいという話を聞いたことがあって。いまマンガ家というのはアニメほどはその点を意識せずに作ってるんですね。そういうところのノウハウから全部作っていかなくちゃいけないわけで、プラットフォームが変わりました、じゃあ面白いのをすぐに作れます、というわけにはいかないと思うんですね。
誠 Biz.ID 現在、電子書籍のプラットフォームは広がってるのに、数は思ったほど出ていないという現状があります。それは電子書籍に最適化したコンテンツがないのが理由であって、既存のマンガなど紙媒体の焼き直しはちょっと難しいんじゃないかという意見も一部にありますが、そのあたりはどうお考えですか。
小沢氏 Kindleの場合、読み上げ機能とか文字のサイズを変えられるとか、そっちがプラットフォームとしてオモシロイと思うんですよね。なのでマンガにはそんなに向いていない、最適化されていないという印象です。かといって、最適化というのが果たして絵を動かしたり音を出すということかというと、それも違う気がするんですよね。もちろんデモンストレーションだとそういうのは派手ですけど、昔のCD-ROM搭載機が出始めのころのマルチメディアコンテンツってあったじゃないですか、あれと同じになりそうな運命も感じます。
Kindleでマンガを表示する問題点は、単純に解像度だと思いますね。もうちょっと解像度が上がれば文字が潰れないで見られるんで。また、マンガって余白が絶対必要で、余白に黒を塗ることで過去回想にしたりというルールがあるんですが、いまはKindleサイドで強制的に白枠をつけちゃうので、こういうのはなくしてほしいです。ほかにもJPEGの全画面表示をできるようにするとか、それくらいはプラットフォーム側で対応してよ、と。iPadでやるのであればそのへんもコントロールできるので、やりやすいかなという気もします。
メリットもあって、例えばKindle DXを寝かせれば見開き表示になるんですが、いまマンガで見開きというのは媒体に制限を受けてるんですね。ノドで綴じてるので、顔とかを見開きに持ってこれないんですよ。よく少年誌で5〜6人のキャラクターがわーっとやってるやつだと、ひとりくらい不自然なポーズをしているのはそういう影響なんです。そういうのがなくなって、大きい一枚絵をちゃんと見せられるようになるので、それも媒体に合わせることにはなるはずなんですね。
誠 Biz.ID 電子書籍での出版を前提にするのであれば原稿の作り方、描き方も変わってくるということですね。
小沢氏 若干は変わってくると思います。激しくマルチメディアに行きたい人と、いまの延長線上でキャラクターをノドの部分の真ん中に持ってきて大丈夫という程度の変化だったりと、二通りあると思うんですけど。
もちろん媒体の特性に合わせることは大事なんですが、マンガを作るといういちばんのメリットは、すごく少ない金額で派手なお話が作れることなんですよ。いまゲーム業界マンガ(注:大東京トイボックス)を描いてるんですが、仮にそんな現実の世界を舞台にしているものでも、ドラマ化しようとしたら億単位以上のお金を動かさなくちゃいけない。ましてやそれがファンタジーやSFだと、ケタ違いのお金がかかる。雑誌一冊分の特撮を作るのにいくらかかるんだと想像したら恐ろしいですよね。
だけどマンガだったらぜんぜんかからないですよね。原材料費だけなら数十円。原稿料も1万円、2万円といった単位で、相当の大御所さんでも5万円程度でできるという小回り感がマンガは一番のメリットだと思うので、実はマルチメディア化というのはそのメリットを消してしまうんです。なので、そういう人もいるだろうけど、すべてがそうなる気はしない、それはマンガ自体がダメになってしまうと思います。そちらの方がフルアニメを作るよりは楽だと思うので、好きな人はやるでしょうけどね。
後編「僕から出版社にお金を分配する未来――電子書籍出版秘話」に続く
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