営業活動の「科学性」と「芸術性」(後編):研修に行ってこい!
業績が伸び悩んでいる営業担当者も、営業の科学性(=力の入れどころ)と、営業の芸術性(=他者との違いを生むための個性や、技術を磨くこと)で業績アップにつながります。今回は、その「芸術性」をお客様に対して発揮するヒントをご紹介します。
自信が持てないために業績が伸び悩んでいる営業担当者が、営業の科学性(=力の入れどころ)と、営業の芸術性(=他者との違いを生むための個性や、技術を磨くこと)で業績アップにつながるケースをご紹介してきました。今回は、その「芸術性」をお客様に対して発揮することで、成果につなげるヒントをご紹介します。
最初の“3分”がカギ
会社には、商品やサービスを売り込む目的で多くの電話がかかってきます。同じ日に、似たようなサービスを提供する会社から複数電話をもらうことも珍しくないため、電話をもらった側は、「またか」と思っています。そしていかにして電話を切るか、そのきっかけを探っています。
その一方で、最初の電話で「早くその商品やサービスについて知りたい」と関心をもってもらえることもあります。その違いは、どこにあるのでしょうか?
それではここで、実際にわたしが受けた電話セールスのケースで考えてみましょう。
ケース1:一般的な広告のPRの電話
「○○のYと申します。本日は「急成長企業」という特集があり、その特集にぜひ貴社様にもご参加いただきたいと思い、ご連絡申し上げました。」
ケース2:思わず話を聞いてみたくなったPRの電話
「○○のXと申します。これから次世代リーダーの育成を考える企業様向けの特集誌面をご用意しておりまして、その誌面にぜひ、貴社様にも広告のご出稿いただけないかと思い、ご連絡申し上げました。本特集記事は、毎回大変ご好評をいただいておりまして、前回は、ご出稿いただきました企業様の7割が新しいお客様の獲得に結びついております。なお、本広告は、私どもが今後を期待する企業様に絞ってご案内させていただいておりまして、ご案内枠も大変少なくなっております。Webサイトを拝見したところ、貴社はリーダー育成に取り組まれているご様子でしたので、ぜひ貴社様にご案内したく思いご連絡した次第です。詳細の情報などをご案内したいと思いますが、お時間をいただけないでしょうか?」
ケース1と2では、「広告を出してほしい」という趣旨は一緒ですが、アプローチの仕方によって、受ける印象が大きく違うのが分かっていただけるでしょう。
成果を分ける3つの準備ポイント
成果が分かれてしまう理由は、電話をかける(あるいはメールで連絡をする)前の準備にあります。
電話をかける前の準備とは一体何でしょうか?それは、(1)お客様にとってのメリットを明確にする(2)そのメリットが効果的に伝わるように話の組み立てを考える(3)印象のいい伝え方(言葉の表現、間の取り方、声のトーン)の工夫をする――の3つです。
多くの場合、この3つができていないために、お客様へ電話やメールでのコンタクトの段階で失敗に終わっています。今は継続取引のあるルートセールスであっても、お客様が面談をするメリットを感じなければ、会うことができません。そのぐらい厳しく選別されています。お客様に選別されることは、営業担当者にとっては苦痛です。営業の仕事が嫌になる、あるいは仕事に対して後ろ向きになってしまうのは、最初のアプローチでつまづいていることも多いのです。
裏を返せば、3つの準備ポイントにしっかり取り組むことで、新規のお客様であっても、その商品やサービスについて関心を示す確率が高まり、ビジネスの拡大に繋がる可能性がでてきます。この可能性の部分に目を向け、行動していく必要があるのです。
“具体的な話を聞いてみたい”と思える話の構成
それでは、先ほどご紹介した広告のご案内を元に、話をどう組み立てればよいのかをご紹介しましょう。先ほどのご案内は、次の4つの要素で構成されています。
- その商品やサービスの目的
- 商品やサービスを活用することで得られる具体的なメリット(リスクのイメージ)
- その商品やサービスの希少性(特別なプラン、期間限定など)
- なぜ、案内をしたいと考えたのか?
上記4つの要素には、次のポイントがあります。
- 「誰に」「何を」というターゲットが明確である
- 今まで提供した商品やサービスの成果が検証されている
- お客様がメリットを感じる企画ができている
- お客様(ターゲット)に関する調査力がある
実は、営業活動を行う上で最も力を入れるべきは、上記4つのポイントを明確にすることです。4つのポイントがしっかりしていればしているほど、営業活動は楽になります。4つのポイントがあいまいだと、営業担当者の個性に頼った営業活動となり、人によるバラつきが出たり、成果に波が出るようになります。実際に、筆者がセミナーの集客や、研修プログラムの案内で失敗したケースは、すべてのケースで1〜4がしっかりできていない状態でした。
チームで準備を進めよう!
それではここで、取り組み方をご紹介します。4つのポイントを明確にするプロセスは、できるだけ、営業活動に関わる人全体(チーム)で進めることをお勧めします。その理由は2つあります。1つは、プロセスから参加することで目的や背景の理解が深まること。もう1つは、アイデアや情報の共有がはかれることです。
その上で最初にすることは、「誰に」「何を」を決めることです。その際に2種類の情報を準備しましょう。1つは過去の取引データなどを集計し、「誰が」「何を」「いつ」「どのぐらい」「いくらで」を客観的に把握すること。もう1つは、そのデータに基づき、既存のお客様に「なぜ(商品やサービスの検討背景)」や「何が決め手となったか」「商品やサービスを導入した結果どうだったか」のヒアリングすることです。
こうしたコミュニケーションが苦手な人は、得意な人と一緒に同行し、お客様とどのように話を進めていけばよいのか学ぶといいでしょう。感覚だけでもつかめると、苦手意識の払しょくにもつながります。
情報が集まったところで「誰に」「何を」を具体的に決めていきます。案内したい内容を、既存のお客様にPRするのか、あるいは、新規のお客様に向けたご案内にするのか、ご案内する商品やサービス内容の特徴が最も活きるのは、誰なのかを明確にします。
「誰に」「何を」が決まったところで、その商品が最も役立つポイントを明確にします。電話を受けた人が担当者であれば、そのことに価値を感じるようにします。多くの場合、“コスト削減”をポイントにしがちですが、コストを訴求するケースは多いためコストだけでは響きません。プラスαのポイントを明確にします。
プラスαのポイントは、(1)お客様の仕事を考えること、(2)既存のお客様からいただいた情報(なぜ導入したのか、導入後のメリットは、など)――をもとにします。その際にポイントがワンフレーズでピンとくるまで絞り込まれていると、訴求点も伝わりやすいでしょう。訴求点が明確になったところで、訴求点を後押しする情報、成果の事例やデメリットが少ない点も補足します。
最後に、その商品やサービスをその時に選ぶ理由づくり=企画を考えます。アイデアは、お客様の今後の計画に合わせてプランを練ります。企業であれば、決算、次期計画、新たな経営計画などのタイミングや、個人であれば、ボーナスやそのサービスや商品が必要なタイミングのちょっと手前です。「ちょうど案内が欲しかった」というように、タイムリーになるように考えます。
以上の情報がまとまったところで、内容をまとめたスクリプトに落とし込みます(スクリプトの詳細や、電話をかける際のコツなどの具体的な取り組みは、次回以降でご紹介する予定です)。
営業における「芸術性」は、他者との違いを生むための個性や、技術を磨くこと。その個性を「お客様の役に立つように生かす」視点で活用すると、営業担当者個々の強みを使い分けることにつながります。それにより、1人の技術に頼って浮き沈みがある営業集団から、総合力で強みを発揮する営業チームへと進化し、チーム全体の業績向上を可能にします。「個性や技術」を生かした営業活動のヒント、使っていってください。
著者紹介:原田由美子(はらだ・ゆみこ)
大手生命保険会社、人材育成コンサルティング会社の仕事を通じ、組織におけるリーダー育成力(中堅層 30代〜40代)が低下しているという問題意識から、2006年Six Stars Consultingを設立、代表取締役に就任。現在と将来のリーダーを育成するための、企業内研修の体系構築、プログラム開発から運営までを提供する。
社名であるSix Starsは、仕事をする上での信条として、サービスの最高品質5つ星を越える=クライアントの期待を越える仕事をし続けようとの想いから名付けた。リーダーを育成することで、組織力が強化され、好循環が生まれるような仕組みを含めた提案が評価されている。
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