リストラされたけど、子供を11人育てた男の物語:城繁幸の「辞める前にこれを読め」
【新連載】辞める前にこれを読め――。労働や雇用問題に詳しい城繁幸さんによる書評が誠 Biz.IDにやってきました。悩み多き若手のビジネスパーソンはぜひご覧ください。
転職がまだまだ一般的ではない日本社会にとって、リストラや倒産は人生の一大転機と言えるだろう。『幕末下級武士のリストラ戦記』は、ガチガチの終身雇用が崩壊し、人生ゼロリセットされた男の物語である。
時は幕末。主人公は“最後の将軍”一橋慶喜の近習。影武者の役目も果たすため、羽織る羽織は主君とおそろい。先祖伝来の終身雇用職である。
ちょんまげと二本ざしという違いはあるが、下級旗本なんてまるっきりサラリーマンだ。「直参」と言えば格は高いが給料は安い。体制の中での安定性だけは抜群という点で、大企業のサラリーマンに似ているかもしれない。
だが、維新の嵐とともに体制自体が崩壊し、終身雇用(というか先祖代々雇用)も終えんを迎える。「武士の権利を守れ!」といって既得権を擁護してくれる労働組合や左派政党はいないので、さまざまな特権はゼロリセットだ。
そんな藩士たちにはいくつかの選択肢を与えられる。
- 藩をやめ、新政府に就職する
- 民間で起業する
- 賃下げされても構わないので、やっぱりこれまでどおり殿のお側に置いてください
普通に考えれば(1)、血気盛んな若手なら(2)という感じだろうが、主人公や同僚たちの多くはしっかり(3)を選んでしまう。このあたり、なんとも日本的な発想だと思うが、当然、数年後の廃藩置県で彼らはみな路上に放り出されることになる。
ところが、主人公のスゴいところはここからだ。彼はそこからめげることなく、民間や役所へ就職し、50歳を超えて起業も経験している。それも、11人の子供を抱えながらだ!
幕府の小役人のどこにこういうバイタリティが残っていたのか不思議な気もするが、社会全体がゼロリセットされる中で、国の隅々にまで新たな活力がわき上がった――ということだろう。
維新とは、価値観も含めた一つの革命だったのである。考えてみれば、幕府260年の身分制度の中から、近代日本は再生したわけだ。たかだか戦後60年の昭和的価値観から覚醒できないはずはない。それにはもうちょっとの刺激が必要だとは思うが。
著者紹介:城繁幸(じょう・しげゆき)
人事コンサルタントを務めるかたわら、人事制度、採用などの各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種メディアで発信中。著作に『若者はなぜ3年で辞めるのか?』『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか−アウトサイダーの時代』『7割は課長にさえなれません 終身雇用の幻想』ほか。
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