iPadアプリ「ユビレジ」が被災地の居酒屋をPOSレジの二重債務から救った:復興の現場
東日本大震災からもうすぐ1年。震災からの復旧支援から、自立に向けた復興へと軸足が移る中、震災直後とはまた異なる取り組みが求められている。そんな中でiPadアプリ「ユビレジ」の居酒屋支援が気になった。
東日本大震災から11カ月以上たった。東北の被災地は寒い冬を迎え、ボランティアや支援の人手も少なくなりがちだと聞く。しかし、震災からの復旧支援から、自立に向けた復興へと軸足が移る中、震災直後とはまた異なる取り組みが求められている。
筆者は、昨年『スマートデバイスが生む商機』というiPadなどタブレットデバイスのビジネス活用について取材した書籍を刊行したが、その中で若手ベンチャーが生み出した「ユビレジ」というサービスを取り上げた。今回は大船渡市で津波による被害で全壊した、居酒屋の支援に彼らのサービスが活きたという事例を紹介したい。
「レジ」という必須インフラによる支援
ユビレジは、iPadでレジ打ちができるアプリだ。従来POSレジは業務用の専用機器をリースし、さらに導入コストや維持コストが掛かかることがほとんどである。ユビレジでは導入時のアプリは無料、月額利用料も5000円に抑えた。低コストながら入力した売り上げ情報をサーバに送り、一括管理できる仕組みまで用意している。
言わずもがなだが、レジ打ちは店舗販売では欠かせないインフラだ。だが、今回支援を受けた大船渡市の居酒屋「北の味処ときしらず」の店長・新沼梢氏は「津波で流されたPOSレジもリースが残っていたが、リース業者に被害状況を説明しても考慮してもらえず、支払いは続いているんです」と話す。新しいPOSレジを導入すれば、二重に支払いが発生してしまうと悩んでいたところ、「ユビレジ」に出会ったというわけだ。
「ときしらず」が大船渡市にオープンしたのは2010年の3月1日。それからわずか1年余りで店舗の全てを失い、先立つものが何もなくなってしまったという新沼氏が、再び2011年12月23日にプレハブ仮設店舗での営業にこぎ着けたのは、中小企業基盤整備機構の支援があったからだ。
「(ユビレジの)顧客にも震災によって被害を受けた人が少なくなかった」とユビレジの代表を務める木戸啓太氏は話す。そこで、震災翌月には「被災地企業の早期営業再開支援プログラム」を開始した。
地震被害のみの地域は早い段階で復興が始まっているところもあるが、津波の被害を受けた地域はガレキの撤去活動が現在も続いており、店舗も跡形もない状況。そこから営業を再開するには相当時間がかかり、現状としては仮設店舗による営業再開がやっと始まった段階だ。
「そういった状況から現在、支援できるところが少しずつ増えて来ました。ユビレジも当初、支援期間を1年間としていたが、その延長も検討しています」(木戸氏)
震災前のもとの状態に戻す、という復旧の考え方から一歩押し進めて行く必要があると筆者は考える。ゼロ、あるいはマイナスからのスタートだからこそ取り組める新しいインフラを整えていくことが、本当の意味での「復興」につながっていくのではないだろうか。ユビレジをはじめとしたIT企業が支援できることはまだまだ数多く存在しているのである。
著者紹介:まつもとあつし
ジャーナリスト・プロデューサー。ASCII.jpにて「メディア維新を行く」、ダ・ヴィンチ電子部にて「電子書籍最前線」連載中。著書に『スマートデバイスが生む商機』(インプレスジャパン)『生き残るメディア死ぬメディア』(アスキー新書)など。取材・執筆と並行して東京大学大学院博士課程でコンテンツやメディアの学際研究を進めている。DCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士。9月28日にスマートフォンやタブレット、Evernoteなどのクラウドサービスを使った読書法についての書籍『スマート読書入門』も発売。
- Twitter:@a_matsumoto
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