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難病と生きる「孤高の書道家」――スマホ時代に問う「手書きの意味」言葉による内省(5/5 ページ)

» 2019年03月28日 05時30分 公開
[今野大一ITmedia]
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書の本質は「自分の“心境”を書くこと」

 財前さんによれば、国宝レベルで評価されている書道史の名品は、作者が自分の思いを言葉にしたものだという。特に書跡で国宝に指定されているのは「墨跡」と呼ばれる僧侶の筆跡が多い。有名な空海の「風信帖」にしても、最澄へ宛てた個人的な手紙だ。そこには空海自身の言葉であり心が記されている。

 「歴史的な記述などではなく、空海が自分の都合を最澄に知らせただけの個人的な手紙であるにもかかわらず、結果的に時代を経てもなお多くの人に感動を与えています。最終的に歴史に残る書は、自らの心境をつづった〈言葉〉なのです。例えばかつて日本人は和歌を詠んでいましたね。和歌を詠むには心の奥底にため込んだ思いを、5・7・5・7・7という三十一文字(みそひともじ)の枠に収めて表現しなければなりません。他人に説明するのに便利な散文が主流になった現代は、そういった自らを内省して心境を表現する能力が衰えてしまった私たちの姿を映しているようにも思われます」

 財前さんは4月1日から7日まで、銀座幸伸ギャラリーで自作の個展を開く。この個展では、誰もが読めるように平仮名だけを使って表現することに挑戦した。

 「一般の人が読めないいわゆる『変体仮名』は使いませんでした。ある一定の人だけが理解できるというような書道は文化としての価値を持たないと考えているからです。

 もう一つ試みたのは自分の心境を作品としてつづることです。言葉は情報を他人に伝達するものではありますが、同時に言葉によって、自分自身を内省することだと思っています。普段は気付かない心の奥に潜んだ自分が、手を通じて筆の穂先に現れる。もしかすると手で文字を書かなくなった現代を生きている私たちは、非常に重要なものを失っているように思います」(財前さん)

phot 個展で展示予定の四季屏風。平仮名だけで書かれている
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