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学級担任を廃止して「学年担任制」に――公立中学校長の改革麹町中学・工藤勇一校長の提言【後編】(1/5 ページ)

» 2019年05月10日 05時00分 公開
[工藤勇一ITmedia]
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編集部からのお知らせ:

本記事は、書籍『学校の「当たり前」をやめた。 ― 生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革 ―』(著・工藤勇一、時事通信社)の中から一部抜粋し、転載したものです。


 宿題もなく、クラス担任もなく、中間・期末試験もない――。学校の「当たり前」を見直し、メディアや教育関係者、保護者などから注目されている公立中学校が東京都にある。千代田区立麹町中学校だ。

 なぜこのような大胆な改革を進めているのだろうか。麹町中学の校長である工藤勇一氏に、3回に分けてその真意を語ってもらった。記事の前編(なぜ宿題は「無駄」なのか?――“当たり前”を見直した公立中学校長の挑戦)では宿題を廃止した理由を、中編(公立中学校長が定期考査を「全廃」した理由――成績を“ある時点”で確定させることに意味はない)では定期考査を廃止した背景をそれぞれ語ってもらったが、最終回の今回は学級担任を廃止した理由に迫る――。

photo 工藤勇一氏:千代田区立麹町中学校校長。1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学卒。山形県・東京都の中学校教諭、新宿区教育委員会指導課長などを経て、2014年4月より現職。 現在は安倍首相の私的諮問機関である「教育再生実行会議」の委員をはじめ、経産省「EdTech委員」、産官学の有志が集う「教育長・校長プラットフォーム」発起人など多数の公職についている。『「目的思考」で学びが変わる—千代田区立麹町中学校長・工藤勇一の挑戦 』(多田慎介著、ウェッジ)も話題に

参考にしたのは、「チーム医療」の考え方

 見直ししたものの3つ目は、1クラス1担任による固定担任制です。

 本校では、2018年度から学級担任を固定せず、学年の全教員で学年の全生徒を見る「全員担任制」を採用しています。

 一人ひとりの教員にはそれぞれ得意分野があります。それを生かすことが、生徒にとって大きな価値につながっていきます。生徒のサインを読み取るのが得意な教員、保護者対応が得意な教員、ICTの活用に長けた教員、さまざまな個性を生かし合うことができる学年運営に変える。それが全員担任制です。

 参考にしたのは、「チーム医療」の考え方です。患者にとって、最も適切な医療を行うために、心のケアや、専門性の高い処置を行う病院の取り組みは、学校に置き換えると、全ての子どもに最善の手だてを、学校全体で取るという姿になります。

 これまでの固定担任制には、さまざまな弊害が見られます。

 例えば、生徒の全てを1人の担任に委ねることになってしまいがちなため、固定担任制では、子どもたちや保護者にとっての学級のよし悪しは、多くの場合、担任にひもづけられる傾向があります。学級の中で問題が起きれば、子どもたちや保護者は安易に担任のせいにしたり、また担任の方も自分で問題を抱えこんでしまったりする状況が生まれていきます。

 今は、学習面から生活面に至るまで、手取り足取り手厚く面倒を見ることがよいものとされ、昨今では、「丁寧な指導」「面倒見の良さ」をセールスポイントにする学校や教育委員会も少なくありません。しかし、大人が先回りをして、手を掛けすぎて育てられた子どもの多くは、自律できなくなっていきます。そして、自分では解決できない問題やトラブルに直面すると、うまくいかない原因を自分以外の周りに求め、安易に他人のせいにしてしまう傾向があるように思います。

photo 手を掛けすぎて育てられた子どもの多くは、自律できなくなる(写真提供:ゲッティイメージズ)
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