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話題の「社員PC監視ツール」がテレワークを骨抜きにしてしまう、根本的理由新連載・働き方の「今」を知る(3/4 ページ)

» 2020年05月04日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]

監視はテレワークを骨抜きにする

 その点テレワークなら、しっかりと成果さえ出していれば、サボっていようが何をしていようが問題ないはずだし、「効率よく仕事を終わらせて、空いた時間を自由に使おう!」という意識を持つことが生産性を高めることにもつながるはずだ。

 にもかかわらず、今般報道されたように在席を強要し、「サボっているか否か」の監視のためにシステムや上司のリソースを割くような形では、従前の「オフィスに出社して9時〜17時の間働く」というスタイルと何ら変わらず、テレワークの意味がない。このような体たらくでは、日本企業の生産性など一生高まらないし、無駄なだらだら残業を排した「成果主義」は根付いていかないのではないか、と暗たんたる気分になってしまう。

過度な監視は、テレワークを無意味にしてしまう(出所:ゲッティイメージズ)

 そもそも「成果主義」とは、組織において業務の成果のみを評価して、報酬や人事を決めるシステムのことだ。入社年次と勤務年数が給与額に比例する「年功制」と異なり、年齢や学歴、勤務年数などを一切考慮せず、成果だけが評価基準であるため、「社員が自主的にスキルアップに努める」「モチベーション向上や、優秀な人材の確保につながる」といったメリットがアピールされ、1990年代後半に大手企業がこぞって導入した経緯がある。しかし、それら導入企業の多くは、2000年代に入ってから元の制度に戻したり、方向転換したりしており、なかなか日本企業には根付いていない。

 例えば「三井物産」では、1999年に「完全に仕事の結果のみで給与査定する」という徹底した成果主義を導入した。しかし、もともと同社は「人の三井」とも呼ばれ、マニュアル化できないノウハウを先輩から後輩へ伝え、育てる文化が強みであった。そこに成果偏重の制度を導入したため、「ノウハウや人脈を伝授するのは損」といった風潮が生まれてしまい、同社の強みを急速に失わせてしまったようだ。2000年代初頭に「国後島ディーゼル発電施設不正入札事件」や、「ディーゼル微粒子除去装置(DPF)データ捏造事件」を引き起こす事態になってしまったのも、当時の同社における短期的な成果を重視する制度の影響が大きいといわれている。結果として同社は06年、チームワークや価値観の共有、人材育成といった定性的な行動を重視する制度に改めた。

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