クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ビンテージイヤーに乗った特筆すべきクルマ(前編)池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2020年12月14日 07時00分 公開
[池田直渡ITmedia]

ヤリスクロス

 最初にヤリスクロスの記事へのリンクを張っておこう(「国民車」ヤリスクロス)。

 実はヤリスクロスに乗って最も意外だったのは燃費だ。実燃費で23km/Lほど。ヤリス・ハイブリッドの33.2km/Lと比べると、意外なほど悪い。まあ絶対値としての23km/Lを悪いなどと言ったら、他メーカーのクルマを評価できなくなってしまうので、素晴らしい燃費だとは言っておくが、あくまでも2台の比較で見ると、下落幅は決して無視し得る範囲ではないと思う。なんでそんなことになるのか考えてみると、ヤリスとヤリスクロスでは、クルマ作りの方針が違うのではないかという結論に至った。

 まずヤリスのCD値は0.30。対してヤリスクロスのCD値は0.35。さらに車幅も広く車高も高く、タイヤの転がり抵抗も大きい。ヤリスはやはり30年規制を相当に念頭に置いた作りになっているのではないか。逆にいえば、ヤリスクロスはそこを一度忘れて、高効率のユニットを用いつつ、ユーザビリティを高めたモデルだといえる。例を示せば、それはヤリスに比べてグッと立てられたAピラーであり、ヘッドルームの余裕である。

 つまり、ヤリスクロスは実用性を軸に据えて、そこを全部温存した上で、最新のハイブリッドの恩恵を与える。そういうクルマなのではないかと思う。

 筆者はヤリスクロスに「国民車」の称号を与えても良いとさえ思った。燃費、取り回し、動力性能、ハンドリング。加えてADASの出来、ほぼあらゆる面でBセグメントとして申し分ない万能車である。内装が安っぽいという声があるのは知っているし、それはそうだと思うが、ではもうちょっと余分にお金を払う気になるだろうかと考えると、そこは価格との兼ね合いだと思うのだ。

 サーキット的な限界走行をすれば、ヤリスはもっとアジリティが高く、軽さによるコントロール性の高さがあるが、ほとんどの人には関係ない話でしかない。全体として鷹揚な動きは長距離ドライブではむしろ武器になるともいえ、国産車で最も万人に勧められる一台だ。

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