ジャック・マー氏“失踪”直前のスピーチ全文(後編)浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(2/5 ページ)

» 2021年01月15日 07時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]

2020年10月24日のジャック・マー氏スピーチ全文(後編)

 第三に、金融の本質は信用マネジメントです。我々は担保を取るという考えを捨て、信用システムに基づいた方法に改めなければならない。

 現在の銀行は、質草を取る、担保を設定するというやり方の延長上にあります。100年前は確かに素晴らしい発想でした。担保、質草というイノベーションがなければ今の金融機関は存在しないし、中国経済が40年で今のように発展することもなかったでしょう。

 しかし、資産や担保に頼った体制はバランスを欠きやすい。この数年、多くの企業家と交流する中で、中国の金融における担保設定の考え方は問題だらけと感じています。資産を全部担保に入れてしまうと、プレッシャーに押しつぶされます。プレッシャーの増大は行動を制約します。あるいは、借りられるだけ借りてレバレッジを上げ続け、負債が膨らむケースもあります。

 皆さんご存じでしょう。銀行から10万元借りるとき、あなたは動揺しています。1000万元借りるとき、あなたも銀行もドキドキします。では10億元ならどうか。あなたは全く慌てる必要がありませんが、銀行は焦っています。もう一つ、ありがちなパターンを紹介します。銀行は優良で、お金が必要でない企業に融資することが好きです。結果、優良企業は問題企業となり、あちこちに投資します。金があるならあるで、面倒を引き寄せるのです。

 担保を取る発想では、世界が今後30年発展する中で、金融へのニーズに対応できないでしょう。我々は今の技術力を生かし、ビッグデータを基礎とした信用システムに置き換えなければなりません。この信用システムはITの基礎や顔見知り社会の基礎ではなく、絶対にビッグデータの基礎の上に構築されなければなりません。そうすることで本当の意味で「信用=財産」となります。物乞いをするにも信用が必要で、信用がなければ、日々の食事にもありつけません。

 真に未来に向けた全く新しい金融システムがつくられることを期待します。

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