いまさら聞けない、ジョブ型雇用の基礎知識 日本企業が真剣に向き合うべき論点新連載(1/3 ページ)

» 2021年01月18日 07時30分 公開
[柴田彰ITmedia]

 ここ数年、日本でもジョブ型雇用という言葉を至るところで耳にするようになりました。雇用や人事に関するテーマが、これだけ大々的に世間で論じられるのも珍しいことです。ジョブ型雇用が大きな注目を浴びている背景には、経団連が日本型雇用制度の見直しと、ジョブ型雇用の拡大を提唱しているという動きがあります。経団連は、行き詰まりを見せている日本企業に対する処方箋の一つとして、旧来的な雇用の在り方を脱却する必要性を説いています。

 こうしたマクロな動きが、ジョブ型雇用の議論を生む大きな契機となっているのは間違いないのですが、それだけで各企業がジョブ型への転換を真剣で考えるようになったわけではありません。多くの日本企業は、グローバル化の立ち遅れ、ビジネスモデルのコモディティ化などによって、苦境に立たされています。そこに加え、コロナ禍というかつて経験したことがない危機を迎え、この先の業績見通しには深い暗雲が立ち込めている状況です。この不確実な世界の中で、苦境を脱するための方策を個々の企業は真剣に検討しています。その中で、ジョブ型雇用が大きくクローズアップされてきているのです。

photo 写真はイメージです(提供:ゲッティイメージズ)

 多くの日本企業には、「年功序列の人事」が自社の競争力を阻害しているという共通認識があります。能力や実力ではなく、年齢や過去の功績によって社員が処遇されているようでは、厳しい競争を生き残ることはできない──そうした強い危機意識が日本の経営者に芽生えてきているのです。ジョブ型雇用の本分は「適所適材」にあります。適所適材を端的にいえば、それぞれの仕事に、最も適した人材を配置することです。当たり前の話ですが、それができれば組織は強靭なものとなります。しかし、年功序列の人事がこの適所適材を阻んでいるというわけです。

 金融や商社、重工業といった、日本経済を支えてきた伝統的な業種の大企業でも、ジョブ型雇用の導入にこれだけ本腰を入れるようになった理由には、海外経験の長い人材が経営者に登用されていることも挙げられます。こうした経営者は、海外での経験を通じて日本の人事・雇用慣行が、世界的に見ればいかに非常識であるか、身をもって実感しています。彼らは、日本の企業が世界で戦っていこうとすると、この人事の非常識を改める必要があると自ずと考えるのです。

 このように現在、日本企業ではジョブ型雇用に対する関心がかつてないほどに高まっています。それに伴い、ジョブ型雇用に関して各所でさまざまな論点が提示されるようになりました。「ジョブ型における評価はどのように行ったら良いのか?」「ジョブ型の人事制度は柔軟な異動を妨げてしまうのではないか?」「一つ一つのジョブの価値をどうやって客観的に測定するのか?」などが、周囲で良く目にし、耳にする論点です。

 確かにジョブ型雇用を採り入れようとすると、いずれも避けては通れない論点ではあります。一方で、その多くが制度的、技術的な各論に集中している印象が拭えません。本来、日本企業がジョブ型雇用を考えるにあたって、本質的に論じるべきポイントはもっと深いところにあります。

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