20年11月の米大統領選前、ファーウェイを含めた中国側には「トランプ大統領の間は何をしても無駄」との空気も漂っていた。トランプ大統領の対中姿勢は大統領選が近づくとさらに苛烈になり、TikTokやWeChatなど中国企業が運営するSNSも標的にされた。
トランプ大統領のやり方には、米国内でも「大統領選を意識したスタンドプレー」「ルールや基準が不透明」との批判が挙がっていたが、ここに来てバイデン政権も、トランプ大統領がむやみやたらに切りまくった「制裁カード」を温存し、中国企業排除の方針をより鮮明に打ち出すようになった。
3月12日には、米連邦通信委員会(FCC)が安全保障上の脅威になる通信機器とサービスのリストに、ファーウェイや中興通訊(ZTE)など中国企業5社を指定した。さらにロイター通信社によると、米商務省はファーウェイに対する禁輸措置の運用をさらに厳格化し、5G機器向けに使用される可能性のある部材を全面的に禁じると産業界に通知した。5G向けであれば、半導体だけでなくアンテナやバッテリーなど幅広い品目の供給を禁じるという。
米政権は中国の半導体受託生産大手・中芯国際集成電路製造(SMIC)に対する輸出規制も発動した。ファーウェイが規制前に台湾企業に半導体を大量発注し、SMICとの取引禁止に直面した米企業、中国企業も台湾企業に調達を集中させたため、対中制裁は中国企業を弱らせるだけでなく、世界的な半導体不足を招き、米自動車メーカーのフォード・モーターやゼネラル・モーターズ(GM)は生産削減に追い込まれた。
米政権は国内の半導体製造業者に4兆円の支援を取りまとめ、中国のハイテク企業は半導体技術の内製化を急いでいる。
コロナ、半導体戦争……2年前には想像もできなかった事象が世界のサプライチェーンを混乱に陥れる中、ファーウェイの任CEOは今年2月、久々に公の場に姿を現し、「今は世界中が半導体チップを奪い合っているが、チップはいずれ生産過剰になる。その時、ファーウェイに売ろうとする企業が出てくるだろう」「ファーウェイ生存の確信は強まっている。困難を克服する手段を多く持てたからだ」と余裕を見せた。
3月31日にファーウェイは20年の決算を発表する。幾重もの制裁を科され、成長が鈍化するのは既定路線だ。任CEOは制裁が発動した直後の19年半ば、「20年は冬の時代。しかし生き残ることができれば、21年には再び成長軌道に乗ることができる」と社員に覚悟を求めた。実際には制裁は続き、数字上は21年も厳しい状況が予想される。
任CEOの「余裕」は強がりなのか。スマホを捨てるのか、残すのか。見えない部分はなお多いが、生存の方向性と戦略は徐々に明らかにされつつある。(中に続く)
早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37。
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