ワイン造りなどによって、農業を夢のあるものに変えたいと山田さんは訴える。そこには都市農業を守りたいという強い思いがある。
川崎市の農業就業人口(販売農家)は00年に2295人いたが、15年には1289人と半数近くに。農地面積は、同期間で777ヘクタールから580ヘクタールに減少した。原因の一つが宅地化だ。岡上でもこの大波が押し寄せてきている。「農地を宅地に転用したら、もうその場所で農業はできません」と山田さんは嘆く。
農地を守り、都市農業を存続させるためには、農業を魅力あるものに変えなくてはいけない。では、魅力あるものとは何か。それは「稼ぐ農業」だという。
「結局、稼げないから、手っ取り早く土地を売ってしまえとなるわけです。都市部に農地を残すためには、やはり確固たるビジネスモデルを作ることが不可欠です」
カルナエストでは飲食店に加えて、食品加工場も建てるなど、六次産業化に取り組んでいる。ワインについては、現状は稼ぐことができていないものの、多くの人たちを呼び込むアイテムとしては最適だ。マーケットも世界に広がっているため、いろいろな可能性はある。都市農業の一つの出口戦略として、ワインには今後も力を入れていきたい考えだ。
川崎市としても、マイクロツーリズムなどの新たな観光スポットとして、山田さんのワイナリーに期待を寄せる。「いずれは川崎市の名産品として、例えば、ふるさと納税の返礼アイテムにもなれば」と、農業振興課の担当者は声を弾ませる。
今年7月にワインが完成した直後に、神奈川県はまん延防止等重点措置、そして緊急事態宣言に突入したため、思うようにワインを振る舞うことができず、山田さんは歯痒さを感じている。
早く多くの人たちに自信作を味わってもらいたい――。そうした思いを抱きながら、来年にリリースするワインの仕込みが始まった。今回はピノ・ノワール、シャルドネ、カベルネ・ソーヴィニヨンなどのブドウ約500キロを使う予定だ。収穫には地元の人たちも駆け付けた。
ワイン造りによって都市農業の在り方を変え、故郷・岡上を守っていこうとする山田さんの活動は、地域の人々の心にも必ずや響いているはずだ。
伏見学(ふしみ まなぶ)
フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。
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