日本国内でワイナリーが急増している。
国税庁の調査によると、果実酒製造場数は2014年3月末に334場だったのが、19年3月末には約1.4倍の466場に。そのうちワインを製造するのは331場(19年)で、こちらは年間20〜30場も増えている。国の特区制度を活用することで参入障壁が下がっていることや、「日本ワイン」に対する人気や需要の高まりなどが背景にある。
ワイナリーの絶対数が増えたことで、産地にも変化が見られる。山梨、長野、北海道といった地域が大半を占めることには変わりないものの、近年は都心でワイン造りを行う「都市型ワイナリー」も出てきている。
ただし、その多くは醸造施設のみで、原料となるブドウは他の地域から調達している。そうした中で、ブドウの栽培から醸造までを一貫して行っているワイナリーが神奈川県川崎市に誕生した。仕掛け人は、農業生産法人・カルナエストの山田貢代表。本格的な都市型ワイナリーとして、周囲の期待は大きい。
「ワインには夢があります。ワインを通して若い人たちが農業に興味を持ち、それが都市部の農業の未来につながっていけばうれしい」と山田さんは熱っぽく語る。
もともとワインにも農業にも無関心だった山田さんは、なぜワイン造りを始めたのか。
カルナエストのブドウ畑があるのは、川崎市麻生区岡上(おかがみ)。最寄り駅は小田急線の鶴川駅で、新宿から30分程度で到着できる立地だ。
山田さんはこの岡上で代々農業を営む家に生まれた。自身が9代目に当たる。しかしながら、「子どものころから農業が嫌いだった」と回想するように、すんなりと家業を継いだわけではない。高校卒業後、親や親戚の反対を押し切り、美容の世界に飛び込む。専門学校を出て美容師やヘアメークの仕事に就いた。
ただし、自分の好きなことに没頭しながらも、心の片隅には、長男としていずれは家に戻らなければならないという気持ちがあった。あるとき、山田さんは、どのみち農業を継ぐのであれば、自分がやりたくなるようなことができるよう、農業の在り方を変えてしまおうと考えた。
「農業といえば1次産業だけという風潮に違和感を持っていましたし、誰もがすぐに農業を始められるわけではないという、職業選択の不自由さも感じていました。そうした仕組みを変えるために、本気で農業のビジネスモデルを作りたいと思いました」
いろいろと思考を巡らせる中で、農業の「六次産業化」に行き着いた。6次産業とは、生産の1次産業に加えて、2次産業の製造・加工、3次産業の販売・流通・サービスを統合した形態のこと。山田さんがまず着手しようとしたのが3次産業の部分で、飲食店を開くことを決めた。ちょうど当時、農家カフェや産地直送レストランなどが都会で流行っていたこともヒントになった。
「農業を見ていて、需要と供給を理解せずに野菜を生産している人が多いと思いました。例えば、このズッキーニが何に使われるか分からないまま作るのでは駄目で、きちんと出口戦略まで考えなくてはなりません。そこで飲食店を作ろう、料理を覚えようとなったのです」
山田さんは23歳から約5年間、ヘアメークの仕事と並行して、都内のレストランでも働き、調理とバーテンダーの修業に励んだ。「修業と言ってもかっこいいものではなく、アルバイトのダブルワークのようなものです。ただ、とにかく学べるものは学んでやろうと思いました」と山田さんは話す。
無事に調理師の免許を取得。11年、29歳のときに地元に戻り、小田急線・新百合ヶ丘駅から徒歩3分の場所にダイニングバー「Lilly's by promety」をオープンした。きっと理解されないだろうと、両親には農業のビジネスモデルうんぬんといった詳しい説明はしなかった。「勝手に店をやるから、野菜だけちょうだい」と伝え、実家から規格外で出荷できない野菜を取り寄せて、メニューの原材料として活用するところから始めた。
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