九州と北海道 2つの高級クルーズ列車は、リピーターを獲得できるのか杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/10 ページ)

» 2022年04月16日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 東急はこの車両を北海道に持ち込み、期間限定で「THE ROYAL EXPRESS 〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」として運行する。00年に「北海道胆振東部地震の復興支援」と「道内各地の観光振興と地域活性化のための観光列車走行プロジェクト」として運行開始した。

 その背景には、札幌都市圏以外の鉄道路線を観光に活用する実証実験という意味合いがあった。しかし経営危機のJR北海道にとって、自力で観光列車、観光車両を仕立てる余裕はない。そこで、東急とJR北海道の共同運行という形になった。車両の輸送はJR貨物が協力しており、はるばる北海道へ回送し、シーズン終了後に伊豆へ戻す。

 「THE ROYAL EXPRESS」は直流電車だから、交流電化区間と非電化区間は走行できない。そこでJR北海道は牽引用のディーゼル機関車2両を特別色のイエローで仕立てた。また、車内設備に電気を供給するために、東急がJR東日本から電源車を買い取った。

 さらに、JR北海道の規格にあわせて、「THE ROYAL EXPRESS」のパンタグラフは取り外す。ここまで手間を掛けて北海道で走らせるとは、情熱というか執念すら感じるけれど、これでも新たな観光列車を製造または改造するより安上がりだという判断はあるだろう。

 こうして走り始めた「THE ROYAL EXPRESS 〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」は、JR北海道周遊ルート観光列車として大人気となり、1運行につき8倍以上の応募があった。そして道内の鉄道ファン、沿線の人々からも大歓迎を受けている。運行ルート各地で歓迎イベントや手振り、旗振りイベントが行われる。

 JR北海道について閉塞感漂う状況の中で明るい話題である。ちなみに初年度の運行は乗客の3割が北海道民、昨年も約10%が北海道民だった。

 「THE ROYAL EXPRESS 〜HOKKAIDO CRUISE TRAIN〜」の運行を沿線の人々も楽しみにしている。「初年度は大漁旗も振っていただいて感動しました」と東急 交通インフラ事業部 事業運営グループの松田高広統括部長は語る。翌年の運行時も熱い歓迎を受けて、スタッフ一同が「帰ってきたんだなあ」と思ったそうだ。

 私の知人たちも札幌、網走で歓迎イベントに参加しており、SNSでその様子を拝見した。たくさんの人々が手を振り、乗客も振り返す。そこに感動が起きる理由は何なのか。この列車は伊豆からやってきたけれど、もはや北海道のプライドでもある。

地元の人々との触れ合いも観光列車の楽しみ。こちらは伊豆のみなさん。北海道では大漁旗が掲げられることもあるという

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