多様な働き方を選択できる社会の実現を目指す働き方改革自体は、日本の労働力確保、そして健康的に長く働くためにも、重要な施策であることは間違いない。ただその代償として、日本の未来をけん引すべき若く意欲の高い人材の「働きがい」が低下してしまっているとしたら、大きな問題だ。
当社が実施したZ世代の若者に関する調査では、「現職に対してどのような不満を持ちますか、持っていますか?」という問いに対し、20代の特徴として「スキルアップ」「やりがい」「仕事の負荷」「業界・企業の将来性」に不満と答えた人が数多くいた。今の20代は自ら描いたキャリアパスに向け早く成長したいという意欲が強く、それを叶える成長環境が得られない場合に、不満や焦燥感を覚えるのだろう。
Z世代が焦りを感じる要因のひとつとして、私生活もキャリアも可視化されるSNSの存在が挙げられる。企業内の価値観に染まって生きてきたこれまでと違って、同級生の活躍や同世代の起業家の日常がSNSを通じて逐一流れ込んでくる。必然的に、Z世代はより広範囲の他者と比較し、比較されながら生きることになる。雇用の安定性が揺らいでいる現状もあり、若者たちは自らの成長環境にシビアにならざるを得ない。
その結果、若者は成長のための「ポジティブ退職」を選択する。個人がSNSで発表する前向きな退職の挨拶に、いくつもの好意的なレスポンスや高評価がつく現象があちこちで見られるのも今の時代ならではだ。一部の若者にとって、キャリア形成のために会社を辞めることは、賞賛されるべき前向きな決断といえよう。
しかし多くの企業にとっては、意欲の高い若者の流出は望むところではないはずだ。今進行しているこの双方のミスマッチを解消するには、どうしたらいいのだろうか。
働き方改革は成果をあげているが、そのデメリットが社会で広く共有されているとは言い難い。今回のテーマでいえば、働きがいや個人の成長に対してもっと議論されるべきだと言えるかもしれない。働き方改革の良い面を生かしつつ、デメリットを回避するには企業、労働者の双方の意識の変化が必要だろう。
近年、経営者が「人的資本経営」について語ることが多くなった。人的資本経営とは、従業員を企業の成長にとって重要な「資本」と捉え、組織課題を改善し従業員の満足度を上げることで企業成長につなげていくという考え方だ。
働き方改革と社員の意欲や生産性の高さを両立できている企業は、働き方改革の当初から人的資本経営にも取り組み、社員一人ひとりのスキルアップや成長のためにリソースを割いている。働く社員の多様性も増していることから、企業は社員個人に焦点を当て、柔軟な働き方やその人に合ったキャリア構築の選択肢を用意することが求められるのではないだろうか。
社員は、自身が求めているキャリアやライフプランを実現できる会社を自分で選ぶという意識変化が必要である。世間的な評価や年収・条件面といった情報にとらわれ、本来自分が求めていたキャリアプランと労働環境が合致しないことが、結局は個人の望むキャリアや成長につながらず早期退職という結果を招く。
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