「住みたい街」5年連続トップの横浜  住民だけでなく企業からも人気を博し続ける納得の理由(4/4 ページ)

» 2022年11月17日 06時00分 公開
[中川寛子ITmedia]
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 風景にそれほどの価値があるものか、と思う人もいるだろうが、新宿区を訪れたことのない多くの人が「新宿区=歌舞伎町」とイメージするように、「風景=目にしたもの」が街のイメージの大半を形作っているのである。とすると、横浜市が50年をかけて営々と築き上げてきた風景を、横浜が好きという人を生み出す一つの大きな要素として考えるのは妥当だろう。 

 横浜市の取り組みを概観して気付かされるのは、景観にこだわることの重要性だ。良好な都市景観の形成を目的として自治体が制定する景観条例は、行政による制約のように感じられることがある。看板の色や形に口出しされたり、ビルのボリューム、高さなどに制限が掛けられたり、また協議に時間を取られるのは特にビジネスにおいてマイナス面に受け止められることも多いが、それを全体として街の価値を上げる方途と考えたらどうだろう。

 現代では、どんなによい商品を作ってもそれが伝わるパッケージやコピーがなければヒットにつながらないことはよくある。街も同様と考えれば、都市としてのスペック+景観が街の個性、選ばれる街の要素になるとは考えられないだろうか。つまり、景観への取り組みは、ネガティブなものではなく、ポジティブな差別化、ブランディングのためのツールというわけである。

 そう考えると街の見え方が少し変わる。他の街、隣の街と同じ風景にすればよしとしている自治体がこれからも選ばれるかどうか、街の独自性とは何か。都市としての基盤に加えて見た目から街を考えるという手もあるのではなかろうか。

都市デザインは「景観」にとどまらない

 最後に一つ、都市デザインというものについて書いておきたい。一般には景観という言葉を使うことが多いが、横浜市は一貫して都市デザインという言葉を使ってきている。21年は横浜市に都市デザイン部署ができて50周年ということでイベントが開催され、歴史を振り返る書籍も出版された。その中に、都市デザインチームの初代リーダーだった岩崎駿介氏が都市デザインについて書いているパートがある。景観とは明らかに異なるニュアンスがあり、それを読むと横浜が選ばれる理由が見えてくる。以下、該当箇所を引用する。

 「都市デザインはかっこよくすることではなく、人と人とのコミュニケーションを通して、都市を人間的な豊かな場にすることが基本で、単なるフィジカルデザイン(物的設計)ではなくてソーシャルデザイン(社会設計)であり、空間の形を通して孤独から共感に至る幾重もの『コミュニケーション装置』をつくることが大事なのです」(横浜都市デザイン50周年事業実行委員会・横浜市都市整備局(2022)『都市デザイン横浜 個性と魅力あるまちをつくる』BankART1929)

 この精神を反映してか、同書籍に収蔵しているほとんどの写真には人の姿があり、街が人のためにあり、人に使われていることが分かるようになっている。その楽しそうな、共感を呼ぶ姿が、横浜という街の魅力でもあるだろう。

著者プロフィール

中川寛子(なかがわ ひろこ/東京情報堂代表)

住まいと街の解説者。(株)東京情報堂代表取締役。路線価図で街歩き主宰。

40年近く不動産を中心にした編集業務に携わり、近年は地盤、行政サービス、空き家、まちづくりその他まちをテーマにした取材、原稿が多い。

主な著書に「解決!空き家問題」「東京格差 浮かぶ街、沈む街」(ちくま新書)「空き家再生でみんなが稼げる地元をつくる がもよんモデルの秘密」(学芸出版社)など。宅地建物取引士、行政書士有資格者。日本地理学会、日本地形学連合、東京スリバチ学会会員。


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