これまで見てきたように、インサイドセールスは顧客体験価値を最大化させるのに欠かせない役割の一つです。しかし、従来型の営業組織がある中で、インサイドセールスを立ち上げるのは想像以上に難易度が高いものです。
例えば、旧来の営業スタイルで結果を出してきた人たちは「営業は新規開拓から継続フォロー、商談、成約まで全てをやってこそ一人前だ」となり、インサイドセールスなんて要らないと考えるでしょう。なんとか導入ができたとしても、筋の悪い案件がドンドン営業にパスされていくと、営業効率が悪くなったと思われてしまうこともあります。こうなると、営業からの信頼は得られず、組織の中でも邪魔者扱いされてしまうでしょう。
私は、インサイドセールスの立ち上げは、まさに変革のプロセスだと感じています。
平時の変革は、変わりたくないという慣性の力が働くため難しく、一つ間違えば元に戻り、変革の道が閉ざされてしまう恐れもあります。非常事態や緊急時はまた別ですが、そうではない状況での変革は、とかく難しいものなのです。
近年のリーダーシップ論の第一人者であるジョン・P・コッター(ハーバードビジネススクール名誉教授)は、変革を成功させるための8段階のプロセスを提唱しています。それになぞらえる形で、各ステップに応じたインサイドセールス立ち上げのポイントを見てみましょう。
市場と競合の状況を分析し、自社にとっての危機や絶好の成長機会を見つけ、関係者の間にインサイドセールス導入の必要性(危機意識)を共有していきます。
導入(変革)の担い手を集めます。インサイドセールス導入においては、営業で成果を出しており、数字に強く、部門間での折衝も行え、人に寄り添ったコミュニケーション能力も高いマネジャー人材を責任者にしてチームを築くことが重要です。マーケティング部門や営業部門との連携は、相手からの信頼もあり、全体観を持って差配できなければ務まらないからです。
インサイドセールスは非常に重要な部門でありながらも、周囲からは成果が見えにくく、顧客から感謝を伝えられる機会も限られている仕事です。だからこそ、自分たちが何をなすために存在しているのか、どこに向かっているのかというビジョンを生み出すことが重要です。
ちなみに優れたビジョンは分かりやすく、実現が期待され、柔軟性を備えているという特徴があります。
生み出したビジョンを、マーケティング部門や営業部門、カスタマーサクセス部門などにも周知し、存在意義を認識してもらう必要があります。
自発的に行動する人が増えていくように、変革を阻む障害を取り除くことが重要です。インサイドセールス立ち上げにおいて障害となりうる組織構造やシステムを変革する働きかけが必要となります。
業績上で目に見える短期的成果を生み出します。小さな成功であっても、短期的に成果が出れば、周囲の認識は変わってきます。
短期的な成果をテコとして勢いをつけ、インサイドセールスの活動を強化していきます。データベースの整理や人材の採用、育成を行い、組織に欠かせないものと認識してもらいます。
インサイドセールスを取り巻く環境も変化していきます。最先端分野の技術やビジネスに常に興味を持ち、アンテナを張り巡らせていることも大切です。物事の本質を追い求め、データを駆使しながら、営業活動の効率性と結果を科学的に高めていくという営みを定着させていきます。
ここまで、インサイドセールスの重要性とその立ち上げにおけるポイントを解説してきました。
顧客体験価値を高め、データドリブンで効率的かつ効果的に問題発見・解決をしていくことは、まさにテクノベート時代に求められるものであり、またこれからのデジタル人材を育成する土壌としてもインサイドセールスは最適な環境と言えるでしょう。インサイドセールスとの綿密な連携と活用によって、よりよいデジタルマーケティング活動を実現していきましょう。
『テクノベートMBA 基本キーワード70』グロービス(著), 嶋田 毅(著)
『ザ・モデル』翔泳社、福田 康隆(著)
『インサイドセールス 訪問に頼らず、売上を伸ばす営業組織の強化ガイド』翔泳社、茂野 明彦(著)
Salesforce 「【連載:Salesforce営業組織の今を知る】Salesforceのインサイドセールスを知り尽くした人」
Salesforce IR資料
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