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声で指示すると企画書完成 “トンマナ”まで再現できる生成AIツールとは?生成AIスタートアップの挑戦

» 2023年11月07日 08時00分 公開
[今野大一ITmedia]

連載:生成AIスタートアップの挑戦

ChatGPTをはじめとする生成AIに注目が集まる中、多くのスタートアップ企業が生成AIビジネスに参入している。新興企業は新たな技術を武器に、既存のビジネスをどう変革していくのか――。

これまでの掲載

今後の掲載予定

スタジオユリグラフ(本記事)、オルツ

※順不同、今後も追加予定

 連載「生成AIスタートアップの挑戦」第9回は、メディア制作・運用を起点としたB2Bマーケティング支援を手掛けるスタジオユリグラフ(沖縄県名護市)を取り上げる。

 同社はAIを使ったライティングアシスタント「Xaris(カリス)」などを提供している。カリスはユーザーに書きたい内容をヒアリングしてくれ、質問に答えるだけで原稿や企画書が完成するという。まるでインタビューを受けているような感覚で記事などを書けるのだ。

 カリスは現在、文章に特化しているものの、将来的には画像や動画、音楽など、あらゆる創作に対応予定だという。今後のビジネスチャンスなどについて、スタジオユリグラフの森石豊代表に聞いた。

社名 サービス概要 顧客が受ける恩恵 サービスの強み リスク対処 ビジネスチャンス
エクサウィザーズ 株主総会の想定問答作成を支援 IR業務を効率化 大企業のニーズを把握、エンジニアも多い 生成AIの処理は国内で実施 コスト削減の余地が大きい業務に拡大できる
Spiral.AI 個性を有した会話が可能なAIコミュニケーションツールを開発 対話していて楽しいコミュニケーション体験 AIに個性を付与する各種技術ノウハウ ISMSなどの国際・業界基準に沿った情報管理 ユーザーフレンドリーなUI/UXに仕立てていくかが非常に肝要
リーガルスケープ 法令検索などのプラットフォームを提供 気になる法的論点などを1分足らずで提供 自然言語処理技術・生成AIをいち早く法務調査に応用 生成AIに詳しい弁護士複数名から助言 法情報をデジタル化し価値を最大化すること
ABEJA 独自AIプラットフォームで企業にDX支援 ゼロPoC(実証実験)で運用が可能 検討から運用までのスピードの速さ AIに関する課題を討議する外部有識者委員会を設置 LLMが企業DXの起爆剤に
AI inside マルチモーダルAIを簡単に作り・使い・共有できるプラットフォーム 文書、画像、音声などあらゆるデータを活用した高度なDXの実現 マルチモーダルなインプット/アウトプット実現 国内サーバーで専用のプライベート環境を構築 自律型AIを研究開発し「AIの民主化」へ
リーガルアイ AI法律相談サービスを提供 「最初に疑問に即座に答える」ニーズに応える 未知の法的問題への対応を予測する能力も持つ 個人情報を収集せず著作権に関わるものは生成していない 弁護士外にも無数のAI(人間の分身)を創造
Cynthialy ChatGPT・生成AIリスキリング研修を提供 業務効率化の例)オウンドメディア運営で取材の翌日に記事完成 生成AIを組織内で実践的に活用できる人材を育成 リスクを防ぐために必要な環境構築のための学習プログラム・環境導入を支援 人手不足の問題にも対処できる可能性
ObotAI 生成AIを活用した多言語対応のサービス ユーザーのニーズに合わせたカスタマイズが可能 海外スタッフが育成する、信頼の多言語AI リスクを感じていることは、今のところない 多言語コンテンツ制作サービスに期待
スタジオユリグラフ 音声入力で記事制作などを支援 音声入力するだけで、ユーザーの代わりに整理・言語化 ユーザーが好むトンマナをAIに学習 ユーザーの文章が剽窃に当たらないかをチェックできる もっと気軽に自分たちの想像を形にできるようになる
各社の回答(要約)

Q. 生成AIを活用したどんなサービスを展開しているのか

 生成AIと音声入力を組み合わせて記事などの制作を支援する「カリス」を提供しています。

 ChatGPTがリリースされた2022年11月末から1カ月後の12月28日に、同ツールのベータ版をローンチしました。ChatGPT以後の生成AI系サービスとしては、かなり早いリリースだったかと思います。

 現在のユーザー数は1500人を超えています。個人だけでなく、約3割は法人の契約です。ライターや編集者だけでなく「メディアを通じて自社のサービスについて発信していきたいものの、記事制作や編集のノウハウがない」といった中小企業の担当者の方にも多く使われています。

声で指示するライティングアシスタント(以下スタジオユリグラフ提供)

Q. 顧客はどんな恩恵を受けられるのか

 カリスは、あらゆる人の「書く」という行為のハードルを下げることをコンセプトに開発しています。考えていることをいざタイピングしようとすると全て忘れてしまったり、整理できなかったりする方も、音声入力を通じて伝えたいことをざっくりとAIに伝えていく。それだけで、ユーザーの代わりに整理・言語化してくれることが大きなメリットです。

 そのため、単純に記事の制作をするだけでなく、お客さまからのヒアリングを基にした提案書の制作や、企画案の壁打ちなどさまざまなユースケースに利用されています。

Q. 自社のサービスの強みは

 多くのサービスが、ユーザーの要望と自社データを生成AIに入力して回答を得る、というプロセスの設計になっています。一方われわれのサービスは、生成AIとの双方向のコミュニケーションを重視しています。

 カリスは生成AIとの連携を前提に、テキストエディタを独自開発しています。

 エディタに入力された文章一つ一つに、どのようなAIとの対話を経て入力されたものなのかという履歴が記録されています。そのデータを通じて、ユーザーが好むトンマナの文章をAIに学習させられます。このシステムは特許を出願済です。

サービスの詳細

Q. 著作権侵害や個人情報保護など生成AIがもたらすリスクへの対処は

 カリスは米OpenAI社のGPT-4を使用しているものの、利用するのに当たってGPT側のデータ学習は許諾していません。

 また、カリスは自動で記事を作成するサービスではなく、あくまで書き手の「構想」や「調査」などをサポートするサービスとして設計しています。機能には、他のサイトや資料を参考にするものもありますが、その際は必ず出典元となるサイトなどを示し、ユーザーの文章が盗用に当たらないかをチェックできるようになっています。

 弊社は日本セーファーインターネット協会にも所属していて、最新の動向も把握しつつ、生成AIを用いた正しいコンテンツの発信に努めています。

Q. 生成AIに今後どんなビジネスチャンスがあると考えるか

 生成AIの強みは「表現力」にあります。ロジックによる推論や課題解決は、形は違えど今までのAIでも実行可能なものでした。

 一方で生成AIは、本物の人間だと錯覚してしまうほどの、自然で多様な「表現」の引き出しを持っています。これは従来のAIには不可能だったことだと私は考えます。

 生成AIに頼ることで、今まで表現したくてもできなかった人たちが、もっと気軽に自分たちの想像を形にできるようになるでしょう。クリエイティブのハードルが下がることで、今後は世の中により多様なコンテンツが生み出されていくのではないでしょうか。

スタジオユリグラフの仕事風景

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