マーケティング・シンカ論

JR東海が「推し旅」で進めるIPと沿線のマッチングビジネス カプコンと組む狙いラグーナテンボスとコラボ(1/2 ページ)

» 2024年03月27日 08時00分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

 JR東海がコロナ禍以降進めている「推し旅」キャンペーン。『ラブライブ!サンシャイン!!』『ゆるキャン△』にはじまり、さまざまなIP(作品)とのコラボを推し進めている。旧来のビジネスの顧客以外も積極的に取り込もうとする、同社の転換を象徴する施策だ。

 3月からは、愛知県蒲郡市にあるリゾート施設「ラグーナテンボス」で、カプコンとのコラボイベント「ストリートファイター6〜俺より強いやつに会いに行く!〜in ラグーナテンボス」を実施している。

 大きく3つの施策を展開していて、ラグーナテンボスの園内で期間限定のアトラクション施設「リアルバトルハブ in ラグナシア」で、最新作『ストリートファイター6(スト6)』が遊べ、対戦もできるほか、『ストリートファイター2』『ファイナルファイト』など過去のカプコンの格闘ゲームも遊べるようにした。

 このほか、園内でのコラボフードの提供、隣接する宿泊施設「変なホテル ラグーナテンボス」で「スト6」のコラボルームも展開している。いずれも5月6日(月)までの期間限定だ。

 JR東海、カプコン、ラグーナテンボスという“異色”のコラボはどのように実現したのか。JR東海営業本部で「推し旅」を進める、福井一貴副長に狙いを聞いた。

JR東海営業本部で「推し旅」を進める福井一貴副長

コンテンツ企業と沿線をつなぐ「次の一手」

――JR東海はコロナ禍以降『ラブライブ!』をはじめさまざまな作品とのコラボを進めています。なぜ、今回「ストリートファイター」だったのでしょうか。

 実は「ストリートファイター」にフォーカス当てていたわけではありませんでした。もともとは、カプコンさんが23年に創業40周年を迎えられたので、このタイミングで「推し旅」とのコラボで何かできないかという相談からはじまりました。

 そこで生まれた観光プロジェクトが「CAPCOM TRIP TOKAI」で、2月から展開しています。現地企画の第1弾として、「THE CAPCOMミュージアム in 名古屋」を2月中に実施しました。これはカプコンのキャラクターが、東海地域のグルメ・文化・観光地を紹介するコラボイラストを展示したもので、「ストリートファイター」シリーズに限らず、『モンスターハンター』や『逆転裁判』といったカプコンを代表する作品のキャラクターによるものでした。

 これに続く現地企画の第2弾が、今回のラグーナテンボスの取り組みです。「ストリートファイター」シリーズはファンの年代や性別の幅が広く、家族連れで訪れる方が多いラグーナテンボスにも相性がよいということで、ストリートファイターに特化したイベントを始めました。

――今回の取り組みの狙いは。

 CAPCOM TRIP TOKAI全体の企画の狙いで言うと、今までの「推し旅」の取り組みは、男性ファンが多い作品や、逆に女性ファンが中心の作品といったように、特定のターゲットに寄せていたところがあります。

 そうなっていた理由としては、高単価な新幹線に乗っていただくには、顧客側にそれ相応の熱量がないと難しいだろうという考えがありました。そしてこれからプロジェクトをもっと大きくしていくのに、広く、世の中の多くの人に体験いただけるような旅を提案していきたい思いが正直ありましたので、カプコンさんと組ませていただいた形になります。

――「推し旅」のターゲットを広げていきたいわけですね。

 その通りです。「推し旅」はこれからもまだまだ展開していきますので、今回の「ストリートファイター」のイベントは、その挑戦の一つという位置付けです。また、ラグーナテンボスが積極的にコラボを進める施設だったこともあります。多くのIPと組める立地というのは、それなりの魅力があるはずです。

 われわれは特に東京の人たちに知られざる沿線の魅力を伝えていく使命があります。「ラグーナテンボス」だけでなく「ナガシマスパーランド」など、東京の人たちにはそれほどゆかりがない東海地域の魅力を発信していきたいと思います。

――「ラグーナテンボス」は、東海地方の方だと知名度はあるかもしれませんが、それ以外の地域だと知らない人も多いと思います。

 今の話を総じて言うと、われわれJR東海の「推し旅」を通じて、コンテンツホルダーの企業と、沿線の観光地などをマッチングさせるようなことができるんじゃないかと最近考えるようになっています。「推し旅」を通じてJR東海は何がしたいのかとよく聞かれるのですが、新幹線の会社が移動や旅などのキーワードを通じ、コンテンツ会社と、沿線の自治体や施設に一番愛称のいいIPをマッチングさせることだと考えています。CAPCOM TRIP TOKAIもこの代表となる一事例だと思っています。

――コンテンツホルダーの企業と、沿線の観光地などをマッチングするビジネスですか。以前のJR東海はそこまで言い切っていなかったと思います。

 今回が初めてです。そう言えるには、個人としても会社としても実績が必要です。『ラブライブ!サンシャイン!!』の例で言うと、もともと地元とIPに接点がある中で、われわれが関わりに行った形ですが、現在、愛知県豊橋市で展開している豊橋出身の作家が描くライトノベル『負けヒロインが多すぎる』とのコラボでは、版元と地元豊橋と作品をつなげる展開ができていると思います。マッチングという言葉が正しいかどうか分かりませんが、JR東海・推し旅はこのエンタメ業界の中で、「つなげていく会社」という存在になりたいと考えています。

『ストリートファイター2』『ファイナルファイト』など過去のカプコンの格闘ゲームも遊べるようにした
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