リアリティーが重要という話をすると、「書を捨て、町に出よ」(教科書ばっかり勉強していても意味がないから、勉強はほどほどにして実社会を観察しろ)ということですね? と誤解する人がいます。断言しますが、そうではありません。
例えば、マーケティングの教科書を学んでいない人が単に街で買い物をしていても、「あの店は流行っているな」「いまは◯◯が売れているんだな」「◯◯という新商品が並んでいた」くらいのことしか見えません。これでは単に(マーケターではない普通の人が)街で買い物をしただけで、有用な学びはほとんど何も得られていません。
しかし、いつも行くショッピングセンターで車の移動展示会(ホールなどに数台の実車が置かれ、自由に見たり触ったりできるイベント)が行われていたとき、理論を学んだ人は頭の中で以下のような学びを得ることができます。
などと解釈することができます。しかし、教科書でチャネル政策やマーケティングコミュニケーションの理論を学んでいない人は、自動車の移動展示会を見ても、単に「自動車ディーラーがショッピングセンターでイベントをやっていた」という情報しか受け取れません。
知らないものは見えません。見えるためには、知っている必要があります。知ったうえで見ようとするから、見えるのです。だから「まず学ぶ」ことが大事なのです。
概念やフレームは、具体から本質を抜き出し、パターンや法則を見いだしたものです。教科書で学んだ、概念やフレームが作られた具体→抽象のプロセスを、次に街に出たときに検証するのです。
マーケティングの基本であるSTP(Segmentation/Targeting/Positioning)を学んだら、翌日街を歩いているとき、STPのことばかり考えながら歩くのです。すると、以下のようなことが見えてくるはずです。
また、価格理論を学んだ後にスーパーに行けば以下のようなことが見えるはずです。
これらの「勉強」に使っている時間は0分です。にもかかわらず、この生活習慣は絶大な学習効果を生みます。仕事は1日原則7時間、土日は休みですが、生活は就寝時を除いてずっと続いているからです。全ての生活時間が「思考のアウトプットタイム」に変身するのです。
時間だけでなく、インプットしたことを「リアルなマーケティングの場」で答え合わせすることでリアリティーが増し、「頭で理解したこと」が「腹に落ちる」ようになります。「インプットしただけの知識」は忘れますが、「腹に落ちて納得したこと」は忘れません。
さらに、教科書を学んだことを生活の中で答え合わせをしていくと、新たな疑問が生まれてきます。例えば、価格戦略なら「教科書には伝統的な価格政策について書かれていたけど、最近の(旅館やテーマパークなどの)ダイナミックプライシングはどういう基準で決まっているんだろう。これからいろんな業界に広がっていくのかな」など、興味が広がっていくはずです。
こうなったらしめたもの。知の地平線が広がり始め、学ぶことが生活習慣に根付いてきた証拠です。
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